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2,今回の依頼人は魔界からのお客様。

界境の番人、ミリウ・クストーデが「ただいま営業時間外です。またのお越しをお待ちしております。」という言葉を気合で飲み込んで、しぶしぶ扉を開ける。

すると、目の前には白馬から降りてこちらを見つめる王子様がいて、「ミリウ嬢、あなたは実は王族の血筋だったのです。お迎えに上がりました。」・・・・・・なんてことはなく、目の前には暗闇に溶け込む、真っ黒い布で体を包んだ人物が立っていた。

勿論白馬なんてものもなく、魔界と人間界を隔てる森のどこをどう歩いたらそうなるのか知らないが、ミリウの家まで徒歩で訪れたのだろう、黒い靴が泥のはね返りでぐちゃぐちゃになっている。

道なりに来ればそんなにどろどろのぐちゃぐちゃになるなんてないから、変な道…いや、道なき道を開拓してきたのは明らかだ。

正直、汚い。家に入れたくないと思ってしまうのは仕方ないことだと思う。

しかも全身真っ黒で、顔も目元以外は布でくるまれているときた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・怪しいだろう。怪しすぎるだろうよ、この人。



そのまま回れ右しておかえりくださいと言おうかと悩んでいる間に、目の前の人物が口を開く。




「土産を持ってきたのだが、番人殿は甘いものはお好きだろうか。」






・・・・・・・・・・・・・・はい?





男の低い声で告げられた言葉に固まる。

この人は挨拶や要件を言うよりも先に土産が口に合うかどうかの確認をしてきたのだから仕方なし。

というか今までもこの家を訪れるものはいたにはいたのだが、土産まで持参してくるものは初めてだった。

しかし思考停止したのは一瞬で、ミリウは素晴らしき復活スピードであった自身の脳に、脳内で感謝の花束を献上しながら、すぐに立ち直る。



「え……ええ。好きですよ?わざわざありがとうございます。」



土産まで持参してくれた方をそのまま追い返すわけにはいかず、どうぞと家に招き入れる。

失礼すると言い、我が家に一歩足を踏み入れようとした目の前の男は、自身の足先をちらりと一瞥し、上げた右足をそっと下ろした。

なんだなんだと男の顔(目元しか見えないが)を見ると、彼が一言。




「申し訳ないが、靴を洗う水は頂けるだろうか。番人殿の御宅を泥で汚すわけにはいかないからな。」




常識は持っているらしい。

いや、こんな時間に仮にも女性宅を訪れる男が常識を持っていると認識して良いのかと疑問は少しあるのだが。



「庭に水道を引いてありますのでよろしければお使いください。」



我が家は森にポツンと建っているから、周囲に食材を買える場所がない。

週に1度人間界の端っこにある集落に買いに行ってはいるが、足りない分は自給自足で賄っている。

そのため我が家の前には広い庭があった。

その水まき用に人間界で発達している技術を使い、水道を引いてもらったのだ。

ミリウ自身は、水道について詳しい知識は残念ながら持ち合わせていない。

以前、魔界に逢引きしに行くいいとこの人間のお嬢さんを見逃してあげたことがあったのだが、その後、なぜかそのお相手と結婚することが決まったのだ。




平民ではごく稀にあることではあるのだが、いいとこ貴族のお嬢さんだから不可能だと考えていた。

まったく、どうやってご両親を説得したのだか。

まあ、その話はさておき、そのお嬢さんが感謝の証にと当時は近くの川まで毎朝水汲みに行っていた私に、水道を引いてくれたのだ。




感謝しかない。

おかげで、毎朝の水くみという重労働から解放された。




大分話がそれてしまったが、私はそんなこんなで水道を手に入れていたわけだから、蛇口のところまで男を案内する。



どうぞと言えば男は首を傾げた。これは何かと。




人間界では水道の認識は浸透しているらしい。

よって、どうやら今回の依頼人は魔界からのお客様な様だ。






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