起動
意識が回復する。ゆっくりと目を開けると、ヒビが入った壁と椅子に座っているウェルスがいた。
「目覚めたか。お前の相棒もそろそろ起きるぞ」
体を動かそうとしたが何かに縛られており、動かすことができない。
「システムチェック。オールグリーン。型式DMK-00ハンター起動を確認しました。私はマスターの戦闘をサポートします」
視界の左上にマップが表示され、右上には少女が表示される。それは、自分が人間ではないことを意味し、動揺する。
体のロックが解除されると同時に自分の手足を確認したが、おかしな点は見当たらなかった。しかし、後ろを振り向くと自分がボロボロになっている遺体があった。
「どうなってんだよ!」
ウェルスに掴みかかる。自分の普段出せる力とはかけ離れた力でウェルスを持ち上げる。
「あの状態では助からない。だから、君の記憶とともにこいつに移した。幸いこいつは移した人の見た目を再現できるから、力の制御さえできれば何不自由なく元の生活に戻れる」
ウェルスをゆっくりと地面に下ろす。そして、アウルはその場に座り込んだ。
「元の生活に戻れるならいい」
「あぁ。だが君には役目がある。世に言う力の代償と言うものだ。君の行動で死者数が大幅に変わる」
「俺に前線で戦えと?」
アウルがウェルスを見つめる。
「そう言うことだ。無論サポートはさせてもらう。君が普段通りの生活に戻れるのはこの争いが終わった後だ」
「はぁ、わかったよ。俺とお前でこのクソッタレな争いに終止符を打つぞ」
アウルは立ち上がると、ウェルスがアウルの胸に拳を当てた。
「私の希望を君に託す。手始めに、彼女から新しい自分の体について教えてもらえ」
「シミュレーションを開始します」
彼の脳内でシミレーションが始まり、アウルは立ったまま動かなくなった。
「一日は掛かるだろうな。ここの掃除をするには丁度いい時間か」
ウェルスは格納庫の掃除を始めた。
アウルがシミュレーションから戻ってきたのは真夜中だった。相変わらず、壁にはヒビが入ってはいるが、破片などは綺麗になくなっていた。
「シミュレーション完了。マスターこれからよろしくお願いします」
「戻ってきたかアウル。君の遺体は棺に入れてある。どうするかは君の勝手だ」
アウルが持っていた物を手渡す。
「燃やしておいてくれ。いつまでも昔の俺を引き攣ってはいられない。ここで一区切りだ」
ウェルスは棺を焼却炉行きのコンベアーに載せ、稼働させる。流れる棺を二人で見送る。
「さて、君の物語は佳境を迎えるな。どうだ、シミュレーションを終えて」
「完全に力を引き出せるとまでは行かないが善処はする。それじゃ、俺は帰らせてもらう」
格納庫から研究室に移動し、壊れてできた壁の穴をウェルスは見る。
「君ならあれから飛び出しても帰れるだろう?定期的に通信を送る」
「あぁ、わかった。体に気をつけろよ」
アウルは穴から夜空へと飛び出し、街へと向かった。