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男の野望

 森の奥深くに早朝から依頼をこなすために歩く冒険者がいた。装備はしっかりと整えており、長剣と短剣を腰に携え、左手に盾を持っていた。

 生い茂る草木を掻き分け道なき道を進む。早朝故か魔物の姿は見当たらない。聞こえるのは川の流れる音と鳥の囀り、葉の擦れる音。

 奥へ奥へと進んでいると森を抜けて山の麓へと辿り着き、周りを見渡すと鉄の扉を見つける。

 依頼書を取り出し、目の前の扉を確認する。周囲の安全を確保したのちに呼吸を整える。

 両手を扉に当ててゆっくりと押し開ける。扉はズザザザッと地面と擦れ合う音を立てながら開く。

 冒険者の目に映ったのは等間隔にランプが設置されている先の見えない廊下だった。

 長剣を手に持ち、盾を構えゆっくりと廊下を進む。後ろから吹く風がより一層冒険者の恐怖心を煽る。

 ある程度廊下を進むと左右に扉が見えてくる。

 冒険者は右の扉から右手でゆっくりと開ける。そこは書物庫だった。上を見上げると螺旋階段があり、書物もそれに沿って上へと連なっていた。

 部屋の真ん中へ足を進めると一つの書物が長机に置いてあった。書物の裏表には何も書いてなく、中を見ると研究者のこれまでの研究成果が綴られていた。

 書物を閉じて周囲を見渡すと、入ってきた扉他三つの扉を確認した。扉は中央の冒険者を中心にして左右正面背面と四方向に分かれていた。

 冒険者は自身からみて、左側の扉へと足を運ぶ。扉に近づくと物音が聞こえ始めた。その音は扉に近づくほど鮮明になっていった。

 身構えて扉の前まで足を進める。そして、扉を押し開けると機械が蠢く工房だった。そして、壁には魔法陣が幾多も描かれていた。

 圧巻に取られ警戒もせずにフラフラっと歩き始めると、突然声を掛けられた。

「そこの君!危ないからそこの梯子を使ってこっちに来なさい!」

 見上げると白衣を身に纏った男性がキャットウォークから注意を促していた。

 指示された梯子を使いキャットウォークに登り白衣を纏った男性の隣に足を進めた。

「私は研究者のウェルスと申します。君は?」

「俺はアウル。ギルドに頼まれてここの調査にきました」

「なるほど、ギルドからか。丁度いい、見学していけ。私の研究は完成したのだからな、ここはもう不要だ」

 そう言ってウェルスはアウルを連れてキャットウォークを歩き始めた。

「この施設は私が学会から追放された後に作った物だ。それ故、誰も私がここで研究をしている事など知らない」

「何故、学会から追放されたんだ?」

「この世界と、私の研究所を見比べてくれればわかるとは思うが、魔術と科学の両方の技術を掛け合わせる研究をしていたのだが。まぁこの世界の人たちは、魔術と科学の優劣を決めたいらしい。よって、私みたいな両方の技術を掛け合わせる研究は煙たがられて、気づいたら学会に私の名前はなかったよ」

 昔話を交えながら、施設の紹介を受けキャットウォークを歩き続けていると、この工房全体を見渡せる執務室にたどり着く。

「ここが私の生活並びに執務室だ。奥が研究室になっている。その隣が被験体保管所だ」

「この中を見せてくれ」

 アウルは被験体保管所を指さした。

「気になるのか?いいだろう、君が最初で最後の見学者だからな全て教えてやる」

 そう言って被験体保管所の扉を開けて中に入ると、真っ白い部屋にネズミ用の複数の部屋が用意され中には多くの異形のネズミが住んでいた。

「この子達が私の実験最終段階をクリアさせてくれた。成功者がこの子だ」

 鋼鉄でできたネズミを指差す。

「あいつは記憶をそのまま受け継いであの機械の器に移ることに成功したのだ。そして、今日私は鋼鉄の体に身を包む」

 そう言ってウェルスはアウルを連れて、研究室へと入る。

「ここで待っていろ」

 アウルは暗い研究室の中で待っていると、パッと明るくなり目の前には人型の兵器が置いてあった。

 その兵器は自分との身長の差は無いが、横に広かった。そして、背中には大きな出っ張りがついて入るが、第一印象は何より紅かった。

「この力で、私は魔王を討伐し再び魔術と科学が歩み寄れる世界を実現するのだ!」

 ウェルスが大声で魔王討伐の宣言をした途端、兵器の後ろの壁が壊れ、二人に破片が襲いかかる。

 アウルは壊れた壁を見ると黒い影が侵入し、兵器を侵食する。

「これが我を殺すための武器か。面白い、我の手足として人類の滅亡に加担させてやろう」

 兵器の瞳に光が入る。そして、排熱が行われゆっくりと動き始める。動作確認が終了しこちらを見つめた。

「実に馴染む。どれ、試し切りでも」

 腰のストックから柄を取り出す。力をこめると真っ赤な刀身が姿を表す。そして、先ほどの破片で無防備なウェルスに突っ込むが、アウルがその間に入り、攻撃を盾で防ぐ。

「パワー、スピードともに問題なし。ただ、体型がでかいのが気に食わんが、そのためのスピードと言ったところか」

 有り余るパワーでアウルを弾き飛ばすと、壊した壁の方向に向き直る。

「いいものをありがとう。今回は見逃してやるが、次は必ず仕留める」

 そう言い放つと、飛び立ってしまった。

 吹き飛ばされたアウルは体を強打しており、骨が数本折れていた。持っていた盾は先ほど振り払いで真っ二つに割れており、切り口は融解していた。

「希望はまだある。捕まれ」

 ウェルスは満身創痍なアウルの肩に手を回し、立ち上がらせる。アウルの意識が朦朧とする中、研究室の奥にある部屋へと入る。

「こいつはさっきのやつの試作型だ。お前をこいつに移す。お前があいつを倒せ」

 呪文を唱え終わると、一時的にアウルの意識は完全に途絶えてしまった。

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