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番外編 女神に誓う忠誠 side カサンドラ

 ツェツィーリエ様が扉の向こうに消えた後、私達は必要最低限以外の事を誰も何も話さず、ただ黙々と引き継ぎと報告を終えた。


 そして、任務を終えると示し合わせたかのように、任務にあたった全ての騎士たちが、訓練場へと向かった。

 そして、全ての騎士が訓練場へ入ると。



 うおおおおおおお!!!



 野太い雄叫びが空へと響き渡る。その場は喜びに満ち溢れていた。


「見たか!聞いたか!?」


「あったりまえだろぉ!?」


「あの微笑みとか女神でしかなかった!」


「俺たち女神に感謝されたんだぜ!?」


「信じられねぇよなぁ!」


 騎士たちが口々に話すのは、先程のツェツィーリエ様の様子。口を開けば喜びが溢れ出てきそうで、だが貴族街の中心部で雄叫びを上げる訳にも行かず、私たちはずっと我慢していたのだ。


 隣を見ると、ズッカー先輩、カール先輩、ルーゴン先輩の3人の先輩方も、デロデロの顔をして口々にツェツィーリエ様を褒めている。

 そして、私はふとツェツィーリエ様が言っていた3人の名前の事を思い出して、笑ってしまった。

 それを見逃すような先輩方ではない。真っ先にカール先輩に詰め寄られてしまう。


「あー!カサンドラ!お前俺たち見て笑ったな!?今の笑み、絶対ツェツィーリエ様に関係する事だろ!」


「そうだな、今のは俺も見逃せない。さあ話してみろ、カサンドラ」


「……話せ」


 普段は冷静なズッカー先輩や、あまり言葉を発する事の無い無口なルーゴン先輩まで詰め寄ってくる。


「いえ、馬車の中で3人の話をする事がありまして」


「何ぃ!?」


「待て!どんな話をしたんだお前は!」


「嘘……」


「大丈夫です、そんなに悪い話はしていません。それで、ツェツィーリエ様が先輩方の名前が面白いと言っておりまして」


「え!そんな変な名前してっかね?俺!?」


「いや、そんなに変な名前ではない筈だが」


「名前、変?」


「いえ、話は最後で聞いてください先輩方。ツェツィーリエ様が面白いとおっしゃっていたのは、先輩方の名前が繋がっているように見えるから面白いって事ですよ」


 そして私は、地面にザリザリと3人の名前を書く。


「まず、ズッカー先輩の最後の文字は【カ】ですよね?」


「いや、伸ばし棒じゃねぇの?」


「伸ばし棒から始まる言葉なんてないでしょう?」


「うん?まぁ、確かに」


 茶々を入れてくるカール先輩を黙らせる。私もよく分かってはいないが、ツェツィーリエ様が言ったことなのだ、反論は許さない。


「そして、カール先輩の名前の頭文字は【カ】」


「あぁ、なるほど」


 頭の良いズッカー先輩はもう理解したらしい。ズッカー先輩を見上げてギョッとした。ズッカー先輩にではなく、いつの間にか周りに集まって来ていた騎士達にだ。


「って事はあれか?単語の最後と別の単語の最初の文字が一致したら繋がるってことか?」


「へ〜、そりゃ面白いな」


「ってことはよ、ズッカールーゴンってなる訳だな!」


 アハハと騎士たちが軽快に笑うが、名前を繋げられた3人の先輩方は微妙な顔だ。いや、ルーゴン先輩だけはどことなく嬉しそう?


「それで俺の名前覚えてくれたんなら、嬉しい」


 そう言って照れ臭そうに笑うルーゴン先輩に、他の騎士たちが口々に狡いと言い出す。


「お前らマジずりぃよな!」


「本当だよ!」


「俺もツェツィーリエ様に名前呼ばれてぇ〜」



 ワイワイと騎士たちが話す中、誰かがポソッと呟いた。


「だけど、あの頬痛そうだったな」


 その言葉をきっかけに、鳥肌が立つほどの殺気がその場に充満する。


「あれは許せないよな……」


「あぁ」


「女神に手を上げるなんて、万死に値する」


「ツェツィーリエ様、自分が辛いのに、それでも俺たちの事気遣って、感謝してくれたんだよな」


「すごいな、あの人は」


「まさしく女神だ」


 口々に、ツェツィーリエ様を害する者への怒りと、ツェツィーリエ様を讃える言葉を発していく。


「俺さ、正直近衛騎士辞めされられて、レオナード殿下直属の騎士になった時は、なんで俺がって思った」


「分かる」


「俺もだ」


「でもさ、今は正直ラッキーだと思ってる」


「あぁ、あんな女神様に忠誠を誓えるんだ。俺たちの事散々バカにしてきた近衛騎士共も、羨むに違いない!」


「俺、ツェツィーリエ様の事、これから先ひとつの傷も付かないくらい、全力で守ろうと思う」


 1人の騎士が発した言葉に、皆が頷く。ここにいる騎士は皆、実力はあるものの、容姿に恵まれなかった者ばかりだ。

 騎士という憧れの職に付き、尊き方を守りたい。そんな夢は、己の醜さの前に儚く砕け散った。

 けれど今、1人の女神のごときご令嬢によって、その夢が再び芽吹こうとしている。


 私は目を閉じて、彼女の姿を思い浮かべる。自身の辛さを奥の奥に隠し続け、最後まで私達を気遣ってくれたツェツィーリエ様。私と交わした約束が、少しでも彼女の救いになればいい。でもきっと、レオナード殿下がいるから大丈夫よね。


 この時の私は、後に約束を交わした事がツェツィーリエ様のお心を救う手助けになった事も、その事がきっかけで信頼を得ることになり、ツェツィーリエ様付きの近衛騎士になる事も、先輩方から愛のムチと称した八つ当たりを受ける羽目になる事も、まだ、知らない。



お読み下さりありがとうございました。

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