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68.アーダルベルト国王

 王太后陛下は、ゆっくりと語りだす。


「今の現国王、アーダルベルトは、実は次男なのよ。あまり知られていない事だけど。第一王子が産まれた7年後、アーダルベルトが産まれたの。第一王子は身体の弱い子でね、しょっちゅう風邪を引くような子だった。私は第一王子の事が心配で、付きっきりで看病したわ。アーダルベルトの事は乳母に任せっきりにしてね。アーダルベルトは、身体も丈夫で元気な子だった事もあって。それは言い訳に過ぎないのだけど」


 王太后陛下は、そこで辛そうな顔を見せる。


「第一王子は、17歳でこの世を去った。余りに若すぎる死に、私はショックを受けて日々泣き暮らしていたわ。アーダルベルトがそれをどう思うかも知らずにね。ある日、アーダルベルトに言われたの。『母上は、兄上しか見ていない。私の事はちっとも愛してくれていないのですね』って。そこで私は始めて気が付いたのよ。アーダルベルトがずっと寂しかったのだと言う事に。あの子は聞き分けの良い子だったから、私はそれに甘えて、あの子に我慢ばかりさせてきた。そしてあの子が限界に達して、私を見限った後、その事に気が付いたの。馬鹿な母親でしょう?」


 王太后陛下は、自嘲するように笑った。


「それから、アーダルベルトがそんな事を思わないように、努力したわ。でも、私は気付くのが遅すぎた。あの子は、何も信じていない冷めた目をして、全てを拒絶した。それもそうよね、第一王子が死んだから次は第二王子、そう思われても仕方がない事を、私はずっとあの子にしてきたのよ。それから、あの子は真面目に取り組んでいた勉強も放棄して、何もかもを諦めたようだった。そして、あんな事に……」


「あんな事、ですか?」


 私の質問に、王太后陛下はハッとした顔をして。


「少し話し過ぎてしまったわね。いずれ分かる事だから、今は聞かなかった事にしてちょうだい」


「はい」


 知りたい気持ちはあったが、私は頷いた。


「アーダルベルトは、愛を信じていない。だから、正妃のゾーファも私達への当てつけのように、社交界で評判の悪い女性を選んだ。でも、私達はあの子への負い目もあって、その噂を揉み消して、正妃に迎えられるようにした。愚かな事をしたと、今では思うわ。あの子が望んだ子なら、と思ってした事だったのだけど、アーダルベルトは更に私達に失望したみたい。『母上は、本当に私に興味がないのですね、よく分かりました』と。あの子が最後に私達にくれたチャンスも、私は台無しにしてしまったのよ」


 王太后陛下は、本当に辛そうに顔を歪めた後。


「レオナードが辛い思いをしたのも、元を辿れば私のせいなのよ。あの子には本当に申し訳ない事をしたと思っているわ。第二王子のアルバートも、きっと父親から愛されていない事を察しているのね。だから、自分が誇れる美貌を最大限に利用しようとしてる」


「第二王子殿下の事は分かりません、でもレオン様は、王太后陛下の事を恨んでなどいませんよ」


「でも、それは私がした事を知らないからでしょう?」


「例え知ったとしても、レオン様は王太后陛下の事を恨んだりはしません。私の愛した人は、そんな器の小さい人ではありませんよ」


「そう、そうなのね……」


 王太后陛下は、さめざめと泣いた。


「ありがとう、ツェツィーリエちゃん。私の犯した罪は消えないけれど、少し気持ちが楽になったわ」


「いえ、お役に立てたなら光栄です」


「レオナードは、本当に素敵な人を選んだのね」


「私が素敵な人かどうかは分かりませんが、レオン様を愛する気持ちは誰にも負けないと断言できます」


 王太后陛下は、静かに微笑んだ。

お読み下さりありがとうございます。

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