57.噂
今日は3人のご令嬢方に、レオンの側近の3人を紹介する日。表向きは、ただそれだけ。でも実際は、前世でいう所の合コンだ。私とレオンはさしずめ幹事といったところだろうか。
馬車の中、緊張からかいつもより無口な3人を眺めながら思う。そして、うん。3人ともすごく気合い入ってるわ、上手くいかなかったらどうしよう……。
プレッシャーを感じて、私も無言を貫く。馬車の中は沈黙に包まれた。最も、沈黙の種類は3人と私では大きく異なる。3人は期待を秘めた沈黙、私は恐怖による沈黙。
王城へ到着し、いつものように離宮へ向かう。3人は初めての王城という事で少し不安げだ。そして、離宮へと続く廊下に差し掛かった時、ついに不安がピークを迎えたのか、ナディア様が口を開いた。
「あ、あの。この廊下凄く静まり返ってますけど、本当に道は合っていますのよね?」
「合っていますわ、私も何十回と通った廊下ですもの」
すると、次は眉を八の字にしたレイチェル様。
「でもぉ、さっき通ってきた所と雰囲気が違うといいますかぁ」
「まぁ【月の王子】レオンの暮らす離宮へ続く廊下ですから」
「レオナード殿下が、国庫を使って散財しているという噂は、嘘だったのですね……」
「そうね、でも噂ってそんなものですわ。トリシャ様も身をもって知っているのではなくって?」
巷に溢れるレオンの噂はどれもこれも、嘘にしてももっとマシなものがあるだろう、というろくでもないものばかりだった。でも、それは身近にいる私だから分かることであって、レオンを見たこともない人達にとっては、きっとその噂こそが全て。
尚悪いことに、レオンを排除したい国王陛下を筆頭とした王族の方たちが、その噂を否定しないものだから、レオンの噂は悪評となって浸透していっている。
本当のレオンを知っている私は悔しいけれど、何も出来なかった。いや、何も出来ないどころか『真実を知っているツェリがそうやって怒ってくれるだけで今は充分だ』と逆に慰められる始末。それに今は、とわざわざ言う事は将来的には何か考えているのだと思うから、私は怒りを押し込めて見守ることにした。
それに、3人が不安に思うのも仕方がない。先程まで通ってきた煌びやかで人の賑わいもある廊下とは一変、ここの廊下はどこか冷たく、ヒンヤリと静まり返っている。そこを通ることに不安を覚えたのだろう。
「申し訳ありません。ツェツィーリエ様、私ったららしくもなく不安がってしまって」
「そうねぇ、雰囲気が変わったからといって動揺したりなんかしてぇ、少し恥ずかしいわ〜」
「私も、すみませんでした。私自身、噂に苦しめられてきたというのに、噂を真に受けたりして……」
「いいのよ。実を言うとね、私もこの廊下を初めて通った時は不安だった事を、今思い出したの。最近はこの廊下を通ればレオンに会えるっていう嬉しさが勝っていたから、うっかりしていたわ。私こそ、皆様の不安をすぐに理解してあげられなくて申し訳ないわ」
謝り合う私たち。次第に何だかおかしくなって笑ってしまう。
「でもぉ、きっとツェツィーリエ様にそれだけ愛されているレオナード殿下の側近の方ですからぁ、期待できますわねぇ」
「そうね、こうなったら善は急げだわ!」
「そうですね、早く行きましょう」
手の平返しが凄まじい3人のご令嬢方の勢いに押され、私たちは離宮に続く廊下を進み出した。
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