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43.不穏 side リーフェルト

 ルードが覚悟を固めた顔をして、ヴィダ様への弟子入りを決意したのが、見ていて分かりました。

 リュグナー宰相、レイヤード侯爵、シェルム騎士団長。

 ここにお集まりの御三方の用件は、ひと段落着いたご様子。

 先程までの張り詰めた緊張感が少し緩み、やっとありつける、美味しい食事。


 レオ殿下も、心強い味方を得ることが出来た安心感からなのか、普段より表情が柔らかくなっています。

 まぁ、ツェツィーリエ様を前にした時の表情とは比べ物にならないくらい、些細な変化ですが。

 ツェツィーリエ様と一緒におられるレオ殿下の表情は、こちらが見ていて照れるほど、甘く優しいものですから。


 しかしそんな中、私はクローヴの表情が頭から離れなくて、少し困っています。

 私が最近見つけた、夢と言うにはまだ小さなそれを語った時のこと。


 俯いていた顔を上げ垣間見せたその表情、まるで、置いていかないで……と、訴えかけてくるかのようでした。

 何故……?


 1度見聞きしたことを完全に記憶できるという性質上、私よりも知識が豊富で、しかも気配を殺せるという特殊な技能まで持っているクローヴ。

 知識に関する貪欲さ以外、全て負けていると言っていい私が、何故クローヴを置いていけると思っているのでしょうか、不思議でなりません。


 クローヴに意識を向けながらも、私は平常心…と自分に言い聞かせ、何も気付いてないフリを続けました。

 すると、レイヤード侯爵がクローヴを連れて別室へと移動してしまいました。


 レイヤード侯爵に任せておけば大丈夫、でも、もし万が一のことがあったら……?

 そんな危機感に駆られ、1人焦っていた時のことです。


「リーフ。クローヴのことを見てこい」


「はっ、はい!」


 レオ殿下もクローヴの様子が気になっていた様子。

 ルードからも『頼んだ』と小さく肩を叩かれます。

 私は、レオ殿下に頼まれた、という事を武器に2人の後を追い掛けました。


「……クローヴィア、君は、19歳という年齢の割に余りに幼い。自分でもそう思いませんか?」


「思いますよ、それはもう」


 私は今何故か、廊下で待ち伏せされていたリュグナー宰相に言い負かされて、クローヴとレイヤード侯爵がいる部屋を、覗き見盗み聞き出来る小部屋にいる。

 何故こうなってしまったのでしょう……。

 でも、この小部屋に押し込められた時に言われた言葉が、妙に胸に残り、私は出ることができません。

 そして後悔しながらも、私の脳は冷静に目の前の出来事を処理していきます。


「私は、面倒な事が嫌いでしてね。単刀直入に言いますよ。クローヴィア、思考を制限されていましたね?」


 その瞬間、クローヴの見せる動揺は余りに激しく、私は今見ている人物が、普段飄々と私たちをからかっているクローヴと同一人物なのかと、確かめたくなる衝動に駆られました。


「制限って程ではないです。疑問に思ったことを質問すると、食事を抜かれたり、折檻されたりしただけで」


「それを制限というのですよ。本来、君は賢い人間だったのかも知れませんね。でも、心無い大人によって、思考することを奪われた」


「ぼくは、思考しています!」


「でも、何処かで思っているのでしょう?思考することを放棄したいと」


「そんなこと……」


「思っている筈ですよ。でなければ、リーフェルトに依存する理由がない」


「………」


 クローヴは、私に、依存していたのか。

『お前がこれからしなければならないことの重さを確かめなさい。最後まで見届けることが、貴方の責任です。』

 小部屋に押し込められる際、リュグナー宰相に言われた言葉。

 私は、拳を強く握りしめると、また2人を見つめました。


「依存、してないとは言えません。でもそれは、思考を放棄したいからじゃなく、ぼくの知識を必要とした上で尚、対等に話をしてくれた、初めての友人だからです」


「では、君は思考することができると?」


「はい。リーフェルトに比べると思慮深さには欠けますし、ルードルフに比べると真面目さもない、レオ殿下に比べると責任感もない。それでも、ぼくは自分で考えて行動することが出来る、人形なんかではないんです」


「良いでしょう。クローヴィア、君をレイヤード侯爵の一員として歓迎しますよ」


「はぁっ!?」


「もし君が、私の言葉に反論せず、思考を放棄したただの人形ならば、適度に利用して放置しようと思っていたのですが……」


「ひ、ひどい……」


「来なかった未来のことなど考えても仕方がないでしょう。君は私に、存在価値を示しました。元々、君の気配を消す技能は買っていたのですよ。でも、貴方があまりに考え無しで馬鹿みたいなのが気になりましてね」


「馬鹿みたいって……」


「でも、きちんと思考できるなら良かったです。誇っていいですよ、クローヴィア。馬鹿の振りは意識してそう出来るものではありません。その点君は素晴らしい才能です」


「何だろう、全然褒められてる気がしないよ……」


「えぇ、馬鹿に見えると言ってますからねぇ」


「やっぱり、ひどい!」


 え、えーと…?

 困惑しながら小部屋から出ると、そこにはリュグナー宰相の姿が。


「バルウィン、あいつ性格悪いだろう?」


「個性的な性格をしていらっしゃるかと……」


「お前それ誤魔化せてないぞ、何だ個性的な性格って」


「すみません……」


「いいか。これからお前はレオナード殿下の盾となって、ロクデナシの貴族共と渡り合わなきゃならん。そんなんでどうする」


「はい」


「お前は良くも悪くも真っ直ぐすぎる。バルウィン程性格歪ませろとは言わんが、嫌味をそうと感じさせないくらいサラッと言えるくらいにはなっておけ」


 その言葉で、ふと思い至った。


「ひょっとして、私がこれからなさねばならないことの重さと言うのは……」


「小部屋に入った時に言ったことか?あんなのは口から出任せだ」


「え“」


「お前があの小部屋から出ないようにしたかったから、それらしい文言で誤魔化しただけ。そんなのに騙されてる内は、まだまだだと言わざるを得んな」


「…………」


「これからよろしくな、義理の息子よ。儂は先に戻ってるからなー」


 憎たらしい笑顔を浮かべながら、スタスタと先を歩いていってしまうリュグナー宰相。

 こ、この爺…。

 レイヤード侯爵に負けず劣らずの、性格の歪みっぷりを見せつけた爺。

 これから苦労する予感しかしない、ですが。

 そのリュグナー宰相が【ロクデナシ】と表現する程の貴族たちと渡り合うためには、今の私では確かに力不足だと、そう感じました。

 絶対に、負けない。

 私は、そう決意を新たにするのでした。

お読み下さりありがとうございます。

追記

誤字報告ありがとうございます。

『覗き見除き聞き』→『覗き見盗み聞き』に修正致しました。

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