表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/101

40.初戦はデビュタントで

 穏やかで愛しい日々はあっという間に過ぎて。

 今年で、レオンと出会ってから5年が経つ。

 私が学園に入学し、レオンがデビュタントを迎える年。

 そんな、世間一般的にはめでたい年であるのだけど。


「くそっ!!」


「すまない、ツェツィ。まさか陛下がこんな手段を取るとは…。考えが及ばなかった養父を許してくれ」


 我が家は大荒れに荒れている。

 レオンが珍しく声を荒らげ、テーブルを拳で叩きつけ、お義父さまは肩を落として自己嫌悪中。

 何故こんな事になったのかというと、それはひとえに、国王陛下が出した命令にある。


【デビュタントを迎える若者たちが、顔を隠すことを許さない。全てを包み隠さず、国王である私のもとに見せるように】


 ざっくり言うとこんな命令が、堅苦しく小難しい文章でもって発令された。


「私とリーフより、弟やその側近が劣っていると認めたくないのだろう、父は」


 なるほど。

 疲れた声でそう呟くレオンに、私は深く納得してしまった。


 というのも、レオンは入学前に私に宣言した通り、中等部を最速の13歳で卒業。

 そして側近であるリーフェルトはなんと、13歳で中等部を卒業しただけでなく、高等部を15歳、史上最年少で卒業するという快挙を成し遂げたのだ。


 私はそのことを、流石知識欲の変態ね…と軽く考えていたのだが、どうやら事はそう単純ではなく、学界には大きな激震が走ったらしい。

 そして、その者は誰なのだ、どんな人物なのだ、と探りを入れる中、どうやら第一王子の側近らしい、という事まで判明した。


『最近アチラコチラからお誘いの手紙が来て困っているのです。』

 とリーフェルトが言うように、【月の王子】のレオン相手なら、引き抜きも容易だろうと画策するが、一向に上手くいかない。

 リーフェルトが第一王子に忠誠を誓っている、ということが確実になってきてからは、レオンの周りは一変した。

 手のひらを返しレオンに擦り寄る者、さらにレオンを敵対視する者、傍観者を決め込む者。


 そんな中、最近何かと話題になるレオンのことを面白く感じないのは、レオンを敵対視する者の筆頭である、国王夫妻と第二王子殿下。

 しかも、レオンが中等部を卒業した13歳になる第二王子殿下は、中等部を卒業できていない。

 このままでは、第二王子殿下よりもレオンが優秀だということになる、それは困った…。

 となっている所に、国王陛下は1つ思い出した。

 レオンはこの上なく醜い。

 そして、いつもベールを被っている婚約者は、顔に傷があるらしい…と。


 デビュタントのパートナーは、基本婚約者が務めることになっている。

 なら、そこでレオンの醜さと、傷物令嬢の顔を暴いてしまえば、きっと皆の目も覚めるだろう…。

 国王陛下は、恐らくそういう意図で命令を出したのだという。


 命令を出すに至った一部始終を聞き終えて。

 国王陛下、最低…。

 どれだけレオンのことを貶めたいのよ。

 毒親もここに極まれりね。

 私はレオン以外の王族に対する嫌悪感を高めていた。


「すまない、ツェリ。私のせいで、君を危険に晒すかも知れない」


「そうですね……、ツェツィの美貌に惑わされ、道を踏み外す者が出てきてもおかしくない」


「その勝負、受けて立ちましょう!」


「「え?」」


「私の顔に傷がなく、そして傍目から見てもレオンを愛してて、私とレオンの2人が幸せということが伝われば、レオンの勝ちよね?」


「え?いや、そうかも知れないが、そんなに単純な事では……」


「そうだぞ、ツェツィ。それに、その先危険が増すかも知れない」


「そんなの今更だわ。今まで、この美しいとされる顔のせいで、危険なことが沢山あったのでしょう?実際危険な目には合っていないから、実感はないのだけど」


「そ、うだな……、ツェリの目に触れないように処理してきたことは、多々ある」


「ツェツィの身に危険が迫るようでは、お前の実父に怒られてしまうからな」


「一緒に戦うわ」


「「は?」」


 またも声が揃う2人を内心おかしく思いながら、燻っていた思いを吐き出していく。


「私ずっと、何で守られてばっかりなんだろうって思っていたの。私の顔のせいで危険なことが起こるのに、何で当事者の私が解決できないの?って。でも、私は戦う場所が違ったのね。今気が付いた。そしてもう決めたのよ。社交の場で味方を沢山作って、私に手を出すことが愚かな事だと示してやるわ。でも、実際の私は非力で弱いから、暴力からは守ってね、レオン、お義父さま。だから、一緒に戦いましょう」


 思いを全てぶちまけて、すっきりした私。

 レオンとお義父さまは、顔を見合わせて、同時に吹き出した。


「ク、クク……。仕方ないな、ツェリはこう言い出したら聞かないから……」


「フフフ……。そうですね、ツェツィは意外と頑固ですから……」


「酷いわ!レオンにお義父さま!……私そんなに頑固かしら?」


 そんなに頑固なことを示すエピソードってあったっけ?と頭を悩ます私。


「ありがとう、ツェリ。私はきっと、社交の場では役立たずだ。それでも、君を守るために頑張るよ」


「困った時はお互い様、なのですよ、レオン。頼りにしてますね」


「ツェツィ、私からも礼を言う、ありがとう。不甲斐ない養父だが、君を全力で守ると誓うよ」


「まぁ、心強いですわ、お義父さま」


 そうして、私たちは初めての社交の場、デビュタントにて戦うことを決意した。

お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ