40.初戦はデビュタントで
穏やかで愛しい日々はあっという間に過ぎて。
今年で、レオンと出会ってから5年が経つ。
私が学園に入学し、レオンがデビュタントを迎える年。
そんな、世間一般的にはめでたい年であるのだけど。
「くそっ!!」
「すまない、ツェツィ。まさか陛下がこんな手段を取るとは…。考えが及ばなかった養父を許してくれ」
我が家は大荒れに荒れている。
レオンが珍しく声を荒らげ、テーブルを拳で叩きつけ、お義父さまは肩を落として自己嫌悪中。
何故こんな事になったのかというと、それはひとえに、国王陛下が出した命令にある。
【デビュタントを迎える若者たちが、顔を隠すことを許さない。全てを包み隠さず、国王である私のもとに見せるように】
ざっくり言うとこんな命令が、堅苦しく小難しい文章でもって発令された。
「私とリーフより、弟やその側近が劣っていると認めたくないのだろう、父は」
なるほど。
疲れた声でそう呟くレオンに、私は深く納得してしまった。
というのも、レオンは入学前に私に宣言した通り、中等部を最速の13歳で卒業。
そして側近であるリーフェルトはなんと、13歳で中等部を卒業しただけでなく、高等部を15歳、史上最年少で卒業するという快挙を成し遂げたのだ。
私はそのことを、流石知識欲の変態ね…と軽く考えていたのだが、どうやら事はそう単純ではなく、学界には大きな激震が走ったらしい。
そして、その者は誰なのだ、どんな人物なのだ、と探りを入れる中、どうやら第一王子の側近らしい、という事まで判明した。
『最近アチラコチラからお誘いの手紙が来て困っているのです。』
とリーフェルトが言うように、【月の王子】のレオン相手なら、引き抜きも容易だろうと画策するが、一向に上手くいかない。
リーフェルトが第一王子に忠誠を誓っている、ということが確実になってきてからは、レオンの周りは一変した。
手のひらを返しレオンに擦り寄る者、さらにレオンを敵対視する者、傍観者を決め込む者。
そんな中、最近何かと話題になるレオンのことを面白く感じないのは、レオンを敵対視する者の筆頭である、国王夫妻と第二王子殿下。
しかも、レオンが中等部を卒業した13歳になる第二王子殿下は、中等部を卒業できていない。
このままでは、第二王子殿下よりもレオンが優秀だということになる、それは困った…。
となっている所に、国王陛下は1つ思い出した。
レオンはこの上なく醜い。
そして、いつもベールを被っている婚約者は、顔に傷があるらしい…と。
デビュタントのパートナーは、基本婚約者が務めることになっている。
なら、そこでレオンの醜さと、傷物令嬢の顔を暴いてしまえば、きっと皆の目も覚めるだろう…。
国王陛下は、恐らくそういう意図で命令を出したのだという。
命令を出すに至った一部始終を聞き終えて。
国王陛下、最低…。
どれだけレオンのことを貶めたいのよ。
毒親もここに極まれりね。
私はレオン以外の王族に対する嫌悪感を高めていた。
「すまない、ツェリ。私のせいで、君を危険に晒すかも知れない」
「そうですね……、ツェツィの美貌に惑わされ、道を踏み外す者が出てきてもおかしくない」
「その勝負、受けて立ちましょう!」
「「え?」」
「私の顔に傷がなく、そして傍目から見てもレオンを愛してて、私とレオンの2人が幸せということが伝われば、レオンの勝ちよね?」
「え?いや、そうかも知れないが、そんなに単純な事では……」
「そうだぞ、ツェツィ。それに、その先危険が増すかも知れない」
「そんなの今更だわ。今まで、この美しいとされる顔のせいで、危険なことが沢山あったのでしょう?実際危険な目には合っていないから、実感はないのだけど」
「そ、うだな……、ツェリの目に触れないように処理してきたことは、多々ある」
「ツェツィの身に危険が迫るようでは、お前の実父に怒られてしまうからな」
「一緒に戦うわ」
「「は?」」
またも声が揃う2人を内心おかしく思いながら、燻っていた思いを吐き出していく。
「私ずっと、何で守られてばっかりなんだろうって思っていたの。私の顔のせいで危険なことが起こるのに、何で当事者の私が解決できないの?って。でも、私は戦う場所が違ったのね。今気が付いた。そしてもう決めたのよ。社交の場で味方を沢山作って、私に手を出すことが愚かな事だと示してやるわ。でも、実際の私は非力で弱いから、暴力からは守ってね、レオン、お義父さま。だから、一緒に戦いましょう」
思いを全てぶちまけて、すっきりした私。
レオンとお義父さまは、顔を見合わせて、同時に吹き出した。
「ク、クク……。仕方ないな、ツェリはこう言い出したら聞かないから……」
「フフフ……。そうですね、ツェツィは意外と頑固ですから……」
「酷いわ!レオンにお義父さま!……私そんなに頑固かしら?」
そんなに頑固なことを示すエピソードってあったっけ?と頭を悩ます私。
「ありがとう、ツェリ。私はきっと、社交の場では役立たずだ。それでも、君を守るために頑張るよ」
「困った時はお互い様、なのですよ、レオン。頼りにしてますね」
「ツェツィ、私からも礼を言う、ありがとう。不甲斐ない養父だが、君を全力で守ると誓うよ」
「まぁ、心強いですわ、お義父さま」
そうして、私たちは初めての社交の場、デビュタントにて戦うことを決意した。
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