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39.孤独な王子と新たな仲間

 少しの間が空き、次に私が離宮を訪れた時、その様子は変わっていた。

 シン…とした静けさに包まれていたはずの空間が、今はきゃらきゃらとした子どもの笑い声だとか、それを叱る年長者の声だとかで、ひどく賑やかだ。


 華やかで優雅な賑わいを見せる本宮とはまた違った賑やかさを見せる離宮を見て、私は、安堵した。

 強いようでいて、実は寂しがり屋で甘えたなレオンも、これならきっと、寂しくない。


「おはちゅにおめにか……けます!ツェチューリエさま!」


「おあいできてこーへーです!チェチェーリエさま!」


 真新しいお仕着せに身を包んだ、小さなメイドさん2人に挨拶をされた。たどたどしい挨拶も、上手く言えない私の名前も、何とも可愛らしい。


「えぇ、はじめまして」


 可愛らしさに抑えきれない微笑みを浮かべて挨拶を返すと。


「ふわー、きれい……」


「きれーねー……」


 ぽわんとした顔で褒めてくれるので、何とも照れくさい。


「ツェツィーリエ様!出迎えが遅くなって申し訳ない。今大将の元に案内する」


「あら、ルードルフ、久しぶりね。出迎えありがとう」


「お久しぶりです。礼を言われることは何もない。それよりお前たち、姫さんに失礼なことしなかったか?」


「しなかったよ!あいさつしたもん!」


「リリもあいさ《《ちゅ》》したー」


 以前より少し綺麗になった言葉使いで挨拶を交わすと、私たちの傍にいた2人の小さなメイドさんに探るような目を向けるルードルフ。彼女たち(後で聞いたが、姉ミリアと妹リリアという名前らしい)は、元気いっぱいに堂々と答える。


「ホントかよ……」


「本当よ、ちゃんと挨拶してくれたわ。彼女たちがレオンの言っていた、ルードルフの大切なお仲間たちなのね?」


 眉を下げて困った顔をするルードルフに、彼女たちの無実を証明する。


「あぁ、本当に大将には感謝してもし切れない。チビたちまでここに住まわせてくれて……」


「随分賑やかになったわね」


「あぁ、その、すまない」


「あら、何を謝ることが?」


「煩いだろう?大将にも、姫さんが嫌がるかも知れないぞって言ったんだが、ツェリがそんなことを言うはずがないだろう、の一点張りでな……」


「流石レオン。私のことをよく分かってるわ」


「そうか……」


 ルードルフは、快活に笑った。



「ツェリ!会いたかった!」


 扉を開けるなり、近付いてきたレオンにキツく抱きしめられる。


「まぁ、レオンったら。会ったのは確かに2ヶ月ぶりですが、手紙は毎日のようにやり取りしていたではありませんか」


「ツェリは、寂しくなかったのか?…私は寂しかった」


 呆れて笑う私に、レオンが恨めしげな目をして可愛いことを言うものだから、喉がくぅ、と変な音を立てたのが分かった。

 …完敗です。私はこの美しくて可愛い人に心底参っている。


「私も寂しかったですよ?でも、言葉にしてしまうと、もっと寂しくなるではありませんか」


「確かにそうかも知れない。周りはこれだけ賑やかになったのに、ツェリがいないと僕はやっぱり駄目だ」


 コツン、と額同士を合わせ、耳元で優しく囁くように告げてくるレオンを意識して、顔が熱い。


「ちょっとぉ?レオ殿下〜、ツェツィーリエ様来た途端に2人の世界に入るのやめ……もがっ!」


 空気を読まないクローヴィアの声に、慌ててレオンから離れようとするが、離れられない。細身なようでいて、しっかり筋肉がついている腕にさらに抱きすくめられる…あぁ好き。


「クローヴ、貴様……」


「お前は馬鹿かクローヴ!大将本気で怒ってるぞ!」


「私もルードの意見に大賛成なのですが……。鼻と口を覆ってしまっているので、息が出来ないみたいですよ、クローヴ」


「あっ、悪ぃクローヴ!」


「ぷはっ!死ぬかと思ったぁ、全くやめてよね、ルード」


「クローヴ、お前のその性根は一度死なねば治らないのではないか?」


「ひっ!ごめんなさい、レオ殿下!」


 レオンの腕に抱き込まれながら、相変わらずな3人とレオンのやり取りを聞く。


 トクトク、という少し早いリズムを刻む心音を耳に感じながら、森のような爽やかな匂いに包まれる。

 あ、私ここから抜け出さなくていいや。一生ここに引きこもりまーす。

 阿呆なことを考えていたら、いきなり腕の中から解放された、ちょっと寂しい。


「す、すまない、ツェリ!苦しくなかったか?」


「いいえ、居心地が良くて、むしろ一生腕の中にいたいと思いましたわ」


「なっ!ばっ!そっ!」


「【何を馬鹿なことを!そんな事を言っては駄目だ!】ですか?事実なのですから、仕方ないでしょう?」


 焦ると言葉にならないレオンの言いたいことを、何となく分かるようになってきた私。

 以心伝心とはこのことね!あれ?レオンは言葉にしているからちょっと違うのかな?


「今の、分かりました?クローヴ」


「ぜんぜーん。ルードは?」


「俺も全く分からなかった、流石姫さんだな」


「うるさいぞ……お前たち……」


 真っ赤になった顔を片手で覆い、覇気なく3人を咎めるレオン。


 以前に会った時より、絆を深めているレオンと3人。それにルードルフが連れてきた、新たな仲間。

 少しずつ、でも着実に、レオンの周りに人が増えてきた。

 孤独で、寂しいことをそうと知らなかった王子。

 彼が孤独で無くなる日は、近い。

 そんな予感がした。

お読み下さりありがとうございます。

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