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21.月の王子

 衝立を越えてもいいか、その問いかけに。


「えぇ、勿論ですわ、レオナード殿下」


 私はそう答える。

 殿下は覚悟を決めたのか、大きな息を吐き、立ち上がったのだろう、衣擦れの音が耳に聞こえる。

 私はソファーから立ち上がり、背筋を伸ばす。下げていた黒のベールを上げることも忘れない。心臓の音がドクドクとうるさい。

 殿下が衝立の向こうから出てくる。


 そこには、美の化身が、いた。


 絹糸を束ねたかのようなキラキラとした長い銀髪に、光を集めたかのような輝く金の瞳。肌は透けそうな程白く、横幅のある綺麗な二重で目力が強く、鼻は嫌味のない程に高く、唇は控えめな大きさで、今は真一文字に引き結ばれている。

 その顔の下には、細身ながら筋肉を感じられる引き締まった体。


 まぁ何が言いたいかと言うと、すっっっっごいイケメン!!!

 え、え、嘘、嘘でしょ!?

 レオナード殿下の内面に惚れて、外見がこの世界でいうイケメンだとしても、私は愛し続ける自信はあった。

 それなのに、それなのに!まさか殿下が前世的イケメンだなんて!

 もうこれは運命、私の運命の人だ!神様ありがとう!

 私は彼と幸せになります!


 脳内でリンゴンリンゴンと祝福の鐘が鳴り、脳内お花畑になっている私を正気に戻したのは、殿下の表情だった。

 私の顔を見るなり、みるみる内に青ざめていった殿下は、今は泣き出す寸前の子どもみたいな顔をしている。

 私がレオナード殿下、と呼びかけようとした瞬間。



「む、無理だ……」



 震える唇から放たれた言葉は、私を打ちのめした。いや、まぁそれだけの美貌をお持ちなら、私なんてただの黒豚ですよねー。

 悲しくなりながらも、仕方ないかと諦める。

 そのまま逃げようとする殿下。黒豚から逃がしてあげようと思ったが、ふと心に過ぎった違和感。

 引き留めようとしたが、きっとこの体格差だと追いつけない。


「きゃあ……!」


 追いつけないなら、あちらから来てもらえればいいじゃない。

 自分でもわざとらしいなぁ、と思いつつ、よろめいたフリをして倒れる。殿下はきっとお優しい方だから、私の事を見捨てては行けない。


「大丈夫か!」


 案の定、今まで背を向けて逃げようとしていたのに、あっという間に近くに来て私を立ち上がらせようとしてくれる。

 私は、差し出された手を引っ張り、腕の中に囲い込むと。


「捕まえましたわ!」


「なっ!ツェツィーリエ嬢、僕を騙したのか!」


「騙すだなんて人聞きの悪い。レオナード殿下が、逃げようとなさるからですわ」


「そ、それは……。でもツェツィーリエ嬢が悪い!こんなに美しいだなんて聞いてない!」


「まぁ……!」


 顔を真っ赤にしながら、怒鳴るように褒めてくれる殿下に、私の胸は高鳴る。そうだった、私この世界では美少女だった!

 お義父さまとお養母さまのおかげで、自分の外見に嫌悪感こそないものの、美しいとはとても思えないので、私に美少女という自覚はない。

 専属メイドのエミールやフランチェスカに、よく怒られる。

『もっとご自身が美しいという自覚を持ってください!』と。


 殿下は私の外見を好ましく思ってくれているみたいだ。

 この武器を使う時が来たわ!押せ押せで押すのよ、ツェツィーリエ!

お読み下さりありがとうございます。

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