96 孤独な魂
マリアがルーファスの隣に座ろうと近づくと、強い力で引き寄せられ、彼の隣ではなく彼の長い足の間におさまるような格好で座らされた。
「ルーファス……?」
広い腕の中に小柄なマリアは包み込まれ、そのまま強く抱き締められた。彼女の首筋に彼の熱い吐息がかかる。
「……ぁ」
マリアはくすぐったくて甘い声をあげた。自分の出した声が恥ずかしくて、身じろぎする彼女の動きを封じるように、ルーファスの手に力が入る。マリアは身体が火照り、鼓動が速くなっていくのを感じた。その一方でルーファスの声は固くて、マリアは不安になって彼の顔を仰ぎ見た。
「マリア……正直、想像以上に道は険しそうだ。俺も今回ばかりは本気で戦わざるを得ないだろう。マリアは馬車の中に隠れて、自分の身を守ることだけを考えてほしい……」
血も、無慈悲に戦う自分の姿も、ルーファスはマリアに見せたくなかった。生理的に恐怖感を覚え、彼のもとから去ってしまうことを恐れたからだ。でも仮にそうなったとしても誰もマリアを責めることはできない。それは仕方のないことだと、ルーファスはどこか他人事のように冷静に考えていた。
それでもマリアに出会う前の、あの孤独な日々に再び戻ってしまうことが怖かった。しかし今はそんなことを言っていられる状況ではないと、彼にもよくわかっている。彼の孤独な魂が悲鳴をあげていた。
「どんなあなたでも大好きよ。私はあなたと一緒にいたいの、これからもずっと……」
マリアの優しい声にルーファスが我に返ると、上目遣いに見つめる彼女と目が合った。恥ずかしそうにマリアは彼の胸の中に身を沈め、そして孤独ごと抱きしめるように彼の背中に手をまわした。
(そういえば、マリアに出会ったばかりの頃も、似たようなことがあったな……)
「さみしくなんてさせないわ。……だって私がずっとあなたのそばにいてあげるもの」
ルーファスは幼いマリアがくれた言葉を思い出していた。思えば彼女はいつでも、彼の望む言葉と優しい温もりを与えてくれた。あの頃より美しく成長した愛する少女を、彼はいつまでもその腕の中に抱いていたかった。他の男になんて、本当は今でも絶対に渡したくなかった……。




