95 不安な夜
旅人の小屋で飲料水の補給等を終えたマリアたちは、その近くで野宿をすることにした。簡単な夕食を済ませて焚き火を囲むが、なんとなく皆口数が少ない。先程管理人から聞いた野盗の話がそうさせるのだろう。
そのときデリシーが突然、お気に入りの酒を片手に立ち上がった。
「私、ちょっと小屋で一緒に飲む相手を探してくるわ」
「こんな時間に1人で大丈夫ですか……?」
思わず立ち上がって止めたマリアの心配をよそに、デリシーは気楽な様子で酒瓶を見せびらかした。
「この先は何があるかわからない危険な道なんだから、今夜は楽しんで来ないとね」
デリシーも明るく振る舞ってはいるが、彼女なりに不安なのかもしれない。それでも心配なマリアは、隣にいるルーファスの様子をうかがった。
「デリシーさんを止めなくていいの? 女性だし、もし何かあったら……」
「小屋まではすぐ近くだし、デリシーだってそれくらい弁えている。自由にさせてやれ」
デリシーが去った後、無言の時間が続き、気まずくなったマリアはルーファスから少し離れたところに座った。なんだか今の彼には近づき難い雰囲気があった。焚き火のはぜる音だけが響き、揺らめく炎が、物思いに沈む彼の顔に陰を落としている。闇に炎が滲む中、ルーファスが突然マリアを呼んだ。




