94 旅人の小屋
追い剥ぎ街道の至るところに存在する「旅人の小屋」は、一般的な街の宿とは違い、寝具や料理の提供はない。その一方で雑魚寝だが宿泊ができ、水源も確保されているので、飲料水の補充や洗濯等ができた。また、管理人も常駐しており、自然と旅人たちが集まるので、情報交換することのできる有益な場所にもなっている。
しかし、宿泊施設としては狭く、小屋内では盗難や痴漢などの各種犯罪が横行していることから、そのすぐそばで野宿する者の方が多かった。小屋周辺には人が集まるので、安全に野宿できるためだ。
「なんだかいつもより人が多いわね」
夕方前に旅人の小屋についたとき、デリシーが周囲を見渡して違和感に気づいた。初老の管理人がマリアたちを上から下までしげしげと眺めて、ルーファスに尋ねる。
「3人で来たのか?」
ルーファスが頷くと、管理人は心配そうにマリアとデリシーを見た。
「この先の道は野盗がかなりの確率で出る。最近は特に多い。そんな少人数……しかもきれいなお姉ちゃんと坊やなんかを連れていたら、確実に狙われるよ。ここで誰か他にも同行者を見つけた方がいい」
「それはわかってはいるが…」
「一昨日、この先の道で商人の一行がやられた。もちろん護衛は何人かつけていたようだが、たった1人を除いて無惨に殺され、すべての金品は奪われてしまったらしい。私も埋葬の手伝いに行ったんだが、あれはひどかったよ……。悪いことは言わないから引き返すか、どうしても通るのなら人数を増やしてから行った方がいい」
マリアとデリシーは不安に顔を見合せたが、ルーファスはわずかに眉を寄せただけだった。いつもより人が多かったのは、行く道を躊躇う者たちが、旅人の小屋に溜まっていたからであろう。
「一応さがしてはみるが、こんな俺たちと組む物好きはいないだろう」
果たしてルーファスの予想は当たっていた。ルーファスとデリシーが管理人の勧めに従って、何人かに声をかけたが、もれなくすべて断られてしまった。マリアたちと組んでも彼らに何のメリットもなく、むしろ狙われて危険が増すだけだからだろう。
「俺たちだけで行こう。たとえ野盗が出たしても、俺が何とかするから、そんなに心配しなくてもいい」
不安そうにしているマリアの頭を撫でながら、ルーファスが優しく言った。




