93 鉄壁の理性
R15です。そういうシーンはありませんが、会話の内容が大人です。わからない人はわからないままで……。
「マリアちゃんもようやくあなたと結ばれて、本当に幸せそうにしていたわね。それに引き換えあなたときたら……もう少しうれしそうにしたらどうなのよ」
デリシーが自分の馬を馬車に寄せて、マリアを起こさないようにルーファスに小声で話しかけた。初めての経験をした翌朝は身体も辛いだろうから、マリアをゆっくり寝かせてやりたいという姉心だった。
「恋人として付き合うことになったんでしょ? マリアちゃんはそう言ってたわよ」
「一応そうだが、マリアにはゆっくり考えてもらうことになっている」
「何を考えさせるのよ?」
ルーファスは嫌々ながらもデリシーに説明すると、デリシーの表情が信じられないものでも見るかのように変わった。
「……まさかそんな、バカなこと……! マリアちゃんと最後までしてないの!? あんなに時間あったのに!」
デリシーは思わず大声を出してしまい、我にかえって慌てて口を塞いだ。
「私はてっきりやることはやったのかと……。大切すぎて手が出せないってやつ? 何よ、その禁欲主義……」
「………」
「あんなにかわいい子が自分のこと大好きって言ってくれて、一晩一緒にいたのに最後までしないなんて、あなた……本当に男なの?」
「………」
「あぁ……もしかして……。良いお医者さん、紹介してあげましょうか?」
「その哀れむような目をやめろ。もうそのことには構うな」
デリシーがわざとらしく同情してくるので、ルーファスは迷惑そうに切り捨てた。
「それにしてもあなたの自制心って、本当に鉄壁なのね。マリアちゃんだって、恥ずかしいとか怖いとか言いながらも、絶対にあなたを受け入れるわよ?」
哀れんだり、罵ったり、散々ルーファスを責め立てるデリシーにルーファスはため息をついた。マリアに対する自分の理性はまったく鉄壁ではないことを、誰よりも彼自身がよく知っていた。彼女には後悔しないように将来のことをゆっくり考えてほしいと思っている。それなのに昨夜のマリアはかなり積極的で、ルーファスは耐えきった自分を褒めてやりたいくらいだった。
(マリアちゃんには、ルーファスの鉄壁の理性をブッ壊す方法を教えてあげないとね)
ルーファスの葛藤が手に取るようにわかるデリシーは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「余計なことをマリアに吹き込むなよ……」
ルーファスは悪巧みをしているデリシーを無駄だとは思いつつも一応は窘めた。しかし彼女はウインクをして、ご機嫌な様子でまた馬をもとの位置まで走らせただけだった……。




