92 追い剥ぎ街道
アーデルハイムの街から、タンガロイ湖のほとりにある次の街ソンムを目指し、マリアたちは朝早く出発した。
アーデルハイムからソンムにつながる道は「追い剥ぎ街道」と呼ばれる極めて危険な道だが、地形上の問題から、まともな道はその1つしかなかった。
その一方で、要所要所には「旅人の小屋」と呼ばれる簡易宿泊施設が設けられ、更には馬車が通れる程度に一応は整備されている。
しかし問題は、森の緑が濃くなるほどに、野盗に襲われる恐怖と隣り合わせの旅をしなければならないことだった。
実際マリアたちも、ルーファスが難なく追い払っていたから事なきを得ていたものの、何度も野盗くずれのならず者たちに遭遇した。
とは言っても、ならず者たちはいわゆる「通行料」さえ彼らに支払えばそれ以上のことはしないので、ほかの旅人にとってもそれほど脅威ではない。
問題なのはプロ集団とも言うべき野盗の方であろう。
野盗は森の深いところに潜伏し、どこともなく集団で現れ、組織だった動きで残虐行為を行った。女子どもは連れ去られ、抵抗すれば殺されるという。遭遇した場合、命があればまだ良い方だとされており、旅人たちから非常に怖れられていた。
ルーファスと心を通わせたマリアだが、今から行く危険な道のりを思うと浮かれてばかりもいられない。
それでもマリアにとって、今日の馬車の揺れは妙に心地良く、早々に深い眠りに落ちていった。




