89 誤解の果てに
「俺が好きなのは……今も昔もマリア1人だけだ」
突然告げられた愛の言葉を、マリアはどこか夢の世界にいるような心地で呆然と聞いていた。何が起こったのかも理解できず、彼女は息をするのさえ忘れていた。
「マリア……?」
マリアが人形のように瞬きもせず、ただひたすらルーファスを見つめているので、彼もさすがに心配になったらしい。
「大丈夫か?」
ルーファスに声をかけられ、ようやく現実の世界に引き戻されたマリアだが、彼の言葉は夢のようで未だに信じられなかった。
「本当に……信じてもいいの……?」
マリアは不安そうに、何度も何度も彼の想いを確かめてくる。その度にルーファスは、ありったけの誠意を込めて彼女に愛を伝え続けるしかなかった。
ここまでマリアを不安にさせたのは他ならぬ彼自身で、彼女が不安に揺れる姿は自分の罪を突きつけられるようで、見ていて忍びなかった。
ようやく両想いであることを実感したマリアは、離れかけていた心の距離をゼロにするように、ルーファスの広い背中に腕を回した。彼もマリアが少しでも落ち着くように優しく抱きしめ直す。
どれくらいの時が経ったのか、ルーファスがマリアの顔を覗きこむと、マリアは幸せそうに、ほんのりと頬を赤く染めて微笑んだ。その微笑みはマリアのことを毎日見ているルーファスの心さえ撃ち抜くほど可愛らしくて、そのあまりの愛らしさに、彼は自分を支配しようとする狂暴な独占欲と戦わざるを得なかった。
マリアは途方もない幸せに包まれながら、いざルーファスと想いが通じ合ってみれば、胸がいっぱいになってしまって、彼に気持ちを伝える言葉が何ひとつ出てこなかった。
何も言わないマリアを見て、ルーファスはひとまず自分の部屋に彼女を連れていくことにする。
マリアは抵抗することもなく、甘えるように彼の腕に頬を寄せ、ルーファスの部屋についてきた。ルーファスは部屋につくとマリアをベッドに座らせ、冷たいタオルと飲み物を用意してやる。
「落ち着くまでは、部屋で休んでいくといい」
静寂が支配する部屋でルーファスはマリアの隣にそっと座った。マリアはルーファスにもたれかかり、また腕を絡ませ、頬を寄せた。
ルーファスはそんなマリアをこの上なく愛しく思いながらも、どうしても彼女のために話しておかなければならないことがあった。
「マリア、そのままでいいから聞いてほしい話があるんだ……」
彼はそう言うと、背後からマリアを抱き締めた。何だか意味深なルーファスの言葉に、マリアは彼の顔が見えないことが急に不安になった。




