80 姉のような存在
R15です。女性が野盗から受けた被害についての描写があります。
「あなたの態度を見ていればわかるけど、マリアちゃんのことは本当に大切なんでしょう? それならやっぱり髪は切らせた方がいいわ。この前も男装していた商家のご令嬢が奴らの餌食になったの。奴らは女に飢えてるから、女が手に入ったら欲望の限りを尽くすのよ」
野盗の残虐性はルーファスもよく知っていた。だからこそ自分1人ではマリアを守りきれないと思い、デリシーに旅の同伴を頼んだのだ。
デリシーは性格や酒癖にはかなり問題があるものの、非常に頼りになる女だった。それにかつてルーファスが味わった地獄の底を這うような絶望の日々の中、何かにつけて面倒を見てくれたのは他ならぬ彼女だった。
彼にとってデリシーは姉のような存在であり、今でも彼女には深い信頼を置いていた。それこそ大切なマリアを託しても良いと思えるくらいに。
「マリアは慣れない旅にも一言も文句も言わず、健気についてきている。世間知らずな彼女を同性として支えてやってほしい。ただし、教育上悪いことは絶対に教えるなよ」
「……教育上って……まるで父親みたいね。本当に過保護なんだから」
デリシーは苦笑しながらも、命懸けで守ってくれる存在がいるマリアのことを羨ましく思う。
「多少は教えるわよ。きれいなものだけで、この世の中はできていないんだから……」
ルーファスには壮絶な過去がある。マリアがそれに同情するだけの女性だったら、ルーファスの隣に立つことをデリシーは認められなかった。




