79 朝帰りの真実
朝帰りのネタバレです。清く正しいヒーローがお好きな方は絶対に読まないでください……。
「あら、早いわね。もうイチャイチャし終わったの? それとも今夜のお楽しみにとっておくのかしら?」
デリシーが食堂に戻って来たルーファスを早速からかうと、彼は冷めた瞳でデリシーを見返した。
「マリアがお前のことを俺の恋人だと勘違いしてた……。どうしてくれるんだ?」
デリシーはニヤリとルージュの唇の端を持ち上げた。
「あら、光栄ね。朝帰りしたからかしら?」
「ただ飲んでただけだろう。俺は一刻も早く解放してほしかった」
彼はあの日、明け方までデリシーの酒に散々付き合わされていた。酔いつぶれたデリシーをトムの好意で貸してくれた宿の空き部屋まで連れていくと、酔っぱらった彼女はルーファスを別の男と間違えて抱きついてきた。
マリアと会ったのは、彼の服を脱がそうとするデリシーを無理やり引き剥がし、疲れ果てて部屋に戻ってきたときだった。そのとき、捨てられた仔猫のような寂しげなマリアの表情が気になってはいたが、デリシーとの関係を誤解していたのなら合点がいく。
翌日も二日酔いのデリシーを家まで送ってやると、デリシーの取り巻きの男たちに絡まれた。旅先で揉め事を起こしたくはなかったので、何とか穏便に事をおさめてようやく宿に戻ってみれば、愛しのマリアの態度が豹変していたという訳だ。
デリシーはうんざりした様子のルーファスを見て、悪戯っぽく微笑んだ。彼女はわざとマリアの前で特別な関係があるように見せつけて、2人が修羅場になれば面白いと思っていた。現にマリアはルーファスとの関係を誤解したらしいので、デリシーの悪ふざけは成功したと言える。
「頼み事をしてきたのはあなたなんだから、多少は私にも楽しみがないとつまらないわ。私としては修羅場になって、あなたが慌てふためく姿を1度くらい見たかっただけよ。ところでマリアちゃんの誤解はちゃんと解いたの?」
「……相変わらず性格が悪いな。そもそもマリアは大人しすぎて修羅場にもならない。誤解されたのは予想外だったがしばらくは様子を見る」
「そんな悠長なまねをして、本当にフラれても知らないわよ。一途な子が思い込むと怖いんだから」
ルーファスからしてみれは、たとえデリシーとの関係を誤解されていたとはいえ、あれほど自分を慕っていたマリアが掌を返したようによそよそしくなったことに少なからずショックを受けていた。相手に対する想いの深さは、マリアとルーファスの間でまだ大きな隔たりがあることを、嫌でも思い知らされたからだ。
それでも彼に恋人がいると勘違いしたマリアが、ひどく悲しそうにしていたことは正直驚いた。旅に出る前のマリアなら、あんな憂いを帯びた切なそうな表情はできなかっただろう。彼女は確実に女になってきている。
だからこそルーファスは、マリアの誤解を敢えて彼からは解かないことにした。どれだけ彼がマリアのことを愛しているか、自分で気づいてほしかった。
(デリシーのことは言えないな。性格悪いのは俺も同じか……)
ルーファスは人知れず自嘲した。




