76 剥き出しの敵意
ルーファスはデリシーの腕をさりげなく外し、マリアの隣に座り直した。
「マリア、ガルディア王国は治安が悪い。これからデリシーに、ガルディア王国の王都シュバルツまでついてきてもらう。ちょうどデリシーも王都に用事があるらしい」
ガルディア王国の王都シュバルツは、ガルディア王国の中央にある巨大な湖の南西にある。そこまで一緒に行くとなれば、ガルディア王国での旅の約3分の2はデリシーが同行することになる。
「デリシーは剣も弓も使えるし、そこらへんの男よりも強い。マリアにとっても同性がいた方が、困ったときに相談しやすいこともあるだろう」
デリシーの女性に似つかわしくないゴツゴツした手は、武器を扱っているためなのだとマリアは納得した。
「デリシーさん、これからよろしくお願いします」
マリアが頭を下げたときだった。
「マリアちゃんは戦えなくて、馬車の中で守られているだけなんしょ?」
デリシーは剥き出しの敵意をマリアに向けた。マリアはそれだけで激しく動揺してしまう。不安に怯える彼女を見て、ルーファスはすかさず庇ってくれた。
「デリシー! 悪意のある言い方をやめろ」
「でも、その通りだから……。武器はもったこともありません。ご迷惑をおかけします」
マリアは自分の無力さを突きつけられ、泣きたくなる気持ちを抑えてそう答えた。事実だったから認めるしかなかった。
デリシーは、マリアを庇ったルーファスを面白くなさそうに睨んだ後、更にマリアに追い打ちをかける。
「マリアちゃん、あなたは目立つのよ。戦えもしないのにそんな目立つなんて、私たちからしたら良い迷惑だわ」
そしてマリアにある要求をした。
「その長い髪の毛を切って、男の子の格好をしてちょうだい」




