75 デリシー
しばらくモヤモヤする展開ですが、すみません……。
彼女は25、6歳くらいだろうか。長い艶やかな黒髪に切れ長の紺碧の瞳、真っ赤なルージュが蠱惑的な女性だった。
さらにマリアよりも頭1つ分は背が高く、スタイルが非常に良い。長い脚や豊満なバストを惜しげもなく見せつけるような、露出の多い服装をしていた。
その女性は一目散にルーファスに近付き、彼と腕を絡めた。ルーファスにその豊かな胸を扇情的に押し当て、マリアには意味深な微笑みを向ける。
彼女は、あの日ルーファスからした甘い薫りを纏っていた。マリアの心は引き裂かれそうな痛みに必死に耐える。
「マリア、この女がデリシーで俺の昔からの知り合いだ。デリシー、この子がマリアだ」
女たちの思惑をよそに、ルーファスがお互いを紹介した。
「はじめまして、マリアと申します。いつもルーファス……さんにはお世話になっています」
マリアはルーファスの恋人かもしれない女性の前で、彼のことを馴れ馴れしく呼び捨てにすることはできなかった。
そんなマリアの態度に、ルーファスはほんの僅かに眉間に皺を寄せた。
「こちらこそ会えてうれしいわ。よろしくね」
デリシーが握手のために差し出した手は、予想よりも大きくてゴツゴツしていた。
「マリアちゃんの手は、重いものなんて持ったことありませんって感じね」
デリシーはマリアの反応に気がついたのか、面白くなさそうに呟く。
ルーファスに促され席につくと、トムが飲み物を持ってきてくれた。ルーファスとデリシーにはお酒が、マリアにはオレンジジュースが出される。
マリアは自分だけが子どもだと宣告されたようで、2人との間に絶望的な差を感じた。
法律的にはアストリア王国では16歳で成人を迎えるため、マリアも飲酒することは可能だが、彼女は今まで1度も飲んだことがなかった。
だからといって初対面の人の前で初めて飲むのは不安なので、そのまま運ばれたジュースに口をつける。
失恋の痛みによく似た、少し苦いオレンジジュースを、マリアは悲しみをこらえて飲み込んだ。




