73 甘い香水の薫り
部屋に入ると、ひさしぶりの1人きりの部屋に、マリアはさみしさを隠しきれなかった。
夜はいつもルーファスとたわいもない話や明日の予定を話したりして過ごしていたので、1人になっても時間を持て余してしまう。それに今日の夜、マリアはルーファスに告白しようと決めていた。
ルーファスに帰ってくる時間を聞こうと、マリアが部屋から出ると、ちょうど同じタイミングで彼が隣の部屋から出てきた。
「何時に帰って来るの? 話したいこともあるし……」
「何時になるかわからないから、待っててくれなくていい。先に寝てほしい」
「え……」
「俺のことより、マリアは部屋から出るなよ? 俺たちのほかにも少ないが一応客はいる。この辺りの客にはがらの悪いのも多い」
マリアはルーファスの言葉に不承不承頷く。その夜は彼から言われた通り部屋からは一歩も出なかったが、彼女はなかなか眠ることができなかった。
明け方、早く目が覚めてしまったマリアが寝不足の頭を抱え、ぼんやりと外を眺めていると、ルーファスが帰って来るのが見えた。マリアはいてもたってもいられず、部屋の前で待つことにする。
「おかえりなさい」
「……あぁ」
マリアの笑顔の出迎えにも、ルーファスは気だるげに返事しただけだった。彼からは女性の甘い香水の薫りがして、服もいつもより着崩していた。
彼がなんだか知らない大人の男の人のように見え、彼女の心に黒い靄がかかる。
「しばらくはここにいる。マリアものんびり過ごしてくれればいい」
ルーファスがそう告げたとき、マリアは気づいてしまった。彼がまたデリシーという女性と会うということに。




