68 大人のキス
保険でR15です。
「ねぇ、ルーファス、教えて……?」
マリアは羞恥に震えながらも、なぜかどうしても引き下がれなかった。よくわからない衝動が彼女を突き動かしている。マリアは自覚していなかったが、クルーガー侯爵の使用した秘薬による催淫効果が彼女を少なからず支配していた。
「薬の影響か何かでおかしいんじゃないか? 早く馬車で横になった方がいい」
覚悟はしていたが、案の定、ルーファスは取り合ってくれず、マリアは想像以上に傷ついてしまう。
「私ではダメなの……? 子どもっぽすぎて魅力ない……?」
マリアは宝石のような瞳に涙を浮かべて、ルーファスに訴える。彼女の瞳に吸い込まれそうになり、彼は思わず目をそらした。
マリアに魅力がないわけがない。むしろ彼女は魅力的すぎて、彼だけではなく周りの男たちも皆、彼女の虜なのに、当の本人がまったくわかっていない。
「そういう問題じゃない。早く休め、色々あって疲れているだろう?」
ルーファスがマリアを優しく諭したが、彼女は俯いて動こうともしなかった。
「大人のキスはルーファスに教えてもらいたいの。あなた以外には教えてもらいたくないの」
マリアの空色の瞳は熱を帯び、瑞々しい唇が蠱惑的に動いて、ルーファスを惑わした。
「ねぇ……? あなたがしてくれないなら、私からしてもいい?」
ルーファスは基本的に女から攻められるのは好きではない。自分が攻めて相手を服従させたいタイプだ。
「これで我慢してくれ……」
そう言って、触れるか触れないかの口づけを落とした。これが今の状況でできる彼の限界だった。
しかし、マリアは納得できない。
「子ども扱いしないで。本当のキスがしたいの」
羞恥に頬を染めながら、潤んだ瞳で上目遣いにおねだりされて、応じない男なんているのだろうか。ルーファスはマリアのそういうところが子どもだと思う。そんな口づけをしたら、もう戻れないだろう。
でも、愛しいマリアが強く自分を求めているのを見過ごせるほど、彼の自制心は強くはなかった……。




