6 アストリア王国とアジャーニ家
マリアたちの住まうアストリア王国は、賢王アストリア13世のもと平和を享受している。積極的な外交の成果もあり、他国との関係も良好だ。
しかしながら、この王国は伝統的に武勇の国であり、特にアストリア騎士団は近隣諸国にもその勇名を轟かせていた。
毎年王都では観閲式や武術大会が盛大にとり行われ、御前試合も定期的に開催されている。
そして精強な騎士団を維持するための王立騎士学校には、貴族はもちろん優秀な平民の学生だけでなく、アストリア王家に忠誠を誓いさえすれば国籍に関わらず受け入れていた。
卒業後は貴賤を問わず騎士になれ、その後の功績次第では陞爵・叙爵も夢ではない。
今や、王立騎士学校に入学することは少年たちの憧れとなっていた。
そのような風潮の中にあって、マリアの父ギルバートは武芸よりも学問を好む物静かな男性であった。
彼は騎士団に関する事務を請け負う文官として、職務に邁進していた。アジャーニ家は代々騎士団に関する仕事を任されているためである。
王立騎士学校のように才能ある民間人の登用も進んでいる一方で、現在もほとんどの役職は貴族によって世襲されている。
ギルバートの死後も、その任務は異母弟マレーリーに子爵位ともに引き継がれた。
そしてクルーガー侯爵は、兄弟2人の上司をつとめていた。
「人が良いだけ」とも噂されるギルバートの異母弟マレーリーは、優男のギルバートをさらに中性的にした男性であった。彼は騎士には到底なれそうもなかったが、そもそも騎士に対する憧れも、職務に対する誇りすらも持ち合わせていなかった。
その一方、異母兄であるギルバートには、栄光あるアストリア騎士団に携わる者としての矜持があった。彼は見所のある少年たちを見つけては、王立騎士学校へ積極的に推薦していたのである。
そんな平凡だが、幸せな毎日が繰り返されていたアジャーニ家に激震が走ったのは、クルーガー侯爵の訪問から一年ほど経過した日のこと。
そのときマリアは11歳。
思いもよらない運命の渦に巻き込まれようとしていた……。
念のため、
陞爵 爵位があがること
です。