54 油断のならない男
問題は王宮騎士のルーファスの方だった。色々な人間を見てきたジェイクにとっても、彼は非常に油断のならない男に思えた。
ルーファスは現アストリア騎士団の中でも最強との呼び声も高く、いかなるときでも冷静沈着で頭も切れると評判だった。そのため平民出身としては、異例の早さで出世を果たしている。
アストリア王国では定期的に御前試合が開催されており、試合は王立騎士学校の学年ごとの5部門と、王宮騎士の1部門のあわせて6つの部門に分けて行われている。それぞれの部門で優勝者を決めるのだが、ルーファスは出場さえすれば、すべての部門において優勝していた。
その強さは圧倒的で、彼はいつでも息も乱さず表情も変えずに、淡々と機械のように対戦相手を倒していく。
人間というものは戦いとなれば、興奮にしろ恐怖にしろ何かしらの感情の揺らぎが出てしまうものだが、ルーファスにはそれがほとんど見られなかった。
どのような人生を歩めば、あの若さであそこに到達するのか。ジェイクは、自分より年若いルーファスに底知れぬ恐怖を感じざるを得なかった。
マレーリー曰く、マリアはルーファスを兄のように慕っているとのことだったが、あんな男がマリアのそばにいれば、彼女が恋に堕ちてしまうのは時間の問題だと思っていた。
実際、御前試合には普段は屋敷に籠っているマリアがルーファスの応援に来ているのをジェイクは確認している。試合後に必ず2人は会い、マリアは彼の頬に祝福のキスをする。そして、ルーファスは彼女を優しく抱きしめるのだ。
そのときの2人の様子は、宗教画のように美しくて神聖なものに見えて、マレーリーが言う兄妹のような関係には到底思われなかった。




