52 能天気な辺境伯夫人
「叔母様……その子は、名前や年齢は言っていましたか? なぜわざわざ王都からカヌレに来たのでしょう?」
今まで散々無関心だったジェイクが、辺境伯夫人を質問ぜめにするので、彼女は驚きを隠せない。
「……やけに食いつくわね? 詳しいことは聞けなかったけれど、年齢は20歳もいってないように見えたわ。でも、あなたにしては珍しく興味があるみたいだけど、彼女はダメよ」
「どうしてですか?」
「カヌレに来たのは、ご主人の家に行く途中なんですって」
「あぁ、既婚者ですか……」
それならば、マリアではないと胸を撫で下ろす。マレーリーは、彼女の結婚については、特に何も言っていなかった。
マレーリーというのは本当に迂闊な男で、マリアを狙っているジェイクの前でも、彼女の個人情報を垂れ流しにしていた。マリアが恋愛に疎いことも何もかも全部。
そのおかげで、ジェイクはマリアのことを驚くほど把握することができていた。
しかし、そうは思いつつも、能天気な辺境伯夫人の次の言葉が妙にひっかかる。
「ご主人もそれはもうかっこよくて……。お互いに労りあっている様子が、物語に出てくる姫と騎士のようだったわ。私もあと4、50歳若ければ……というところかしら、ほほほ。
まぁ、あなたも良い男なんだから、お目当てのお嬢さんと幸せになるのよ?」
辺境伯夫人の戯れ言はとても聞いてられなかったが、マリアと同じ金髪碧眼の女性を妻にもつ夫とは、どのような男なのだろうか。嫉妬と羨望が入り交じり、ジェイクは思わず聞いていた。
「彼女のご主人はどんな男でしたか? 何歳くらいの、どういった容貌の……」
辺境伯夫人はうっとりとした様子で話してくれる。彼女はジェイクが何を考えているのか気にもしていないようだった。
「お嬢さんより歳上の、といっても20代前半くらいかしら? 背が高くて、黒髪に青い瞳の美男子だったわ。ちょっと危険な雰囲気もすてきだったわねぇ」
ジェイクは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「まさか……!」
「あら、どうしたの?」
「ルーファス……あいつがマリアを……!」




