51 カヌレで会った子
辺境伯夫人は甥のジェイクを見て、何か女性と進展しているのだと推察した。やはり結婚するなら恋愛結婚の方が良いに決まっている。
このアストリア王国では離婚は認められていない。無理に話を進めて、かわいい甥が仮面夫婦となってしまっては目も当てられないと、辺境伯夫人も内心ではそう思っていた。
「そういえば……」
辺境伯夫人は何かを思い出したかのように、突然話題を変えた。今朝カヌレに行ったことを話し始める。
「なんで、カヌレに行ったんですか? あそこは特に何もないでしょう」
「私のお気に入りの職人さんが、もう歳だからって、カヌレの孫夫婦のところに引っ越してしまったのよ」
わざわざ職人を追ってカヌレにまで行くとは、この叔母は本当に暇なんだな、とジェイクは呆れ果てた。
自分は出来の悪い部下を焚き付けながら、仕事を猛烈な勢いでこなし、早馬で祖母の見舞いに駆けてきたというのに。
「そこで、とってもきれいな子に会ったの!」
「はぁ」
カヌレのような鄙びた街にそんな美人がいるとは思えなかったので、ジェイクはやる気なく頷いた。
しかし次に続く言葉で、聞き捨ててはおけなくなった。
「金髪で水色の瞳の本当にきれいな女の子でね。あなたにも会わせてあげたかったわ……。でも金髪碧眼はウィスタリア王家の特徴だから、そんな子がカヌレなんかにいるわけないと思って本人に聞いてみたら、やっぱり王都出身なんですって」
うっとりとした様子で話す辺境伯夫人を尻目に、彼は「まさか」と思った。箱入り娘のマリアがカヌレにいるはずがない。
前ウィスタリア王は艶福家で有名だったから、王家の血を引いた別の女性の可能性も充分にある。それでもジェイクは、嫌な予感に動悸を抑えることができなかった。
出来の悪い部下とは、マレーリーのことです(笑)




