49 お見合い
その頃、リンデルの街のある屋敷では、初老の貴婦人が向かい合って座る貴族の男性に熱心に話しかけていた。
「叔母様、急にこんなところまで呼び出したかと思えば、そんなお話ですか」
「あら、お言葉ね。とても大事なことでしょう? ジェイクもそろそろ身を固めなさいな」
そう言って、ジェイクと呼ばれた彼の目の前に、お見合い相手の釣書を並べる。
「こちらのお嬢さんは侯爵家、こちらは伯爵家のお嬢さんね……。ほかにもたくさんあるわよ?」
彼はやる気なく、目の前に並べられた令嬢の絵姿を眺める。どれも彼の心を動かすものではなかった。
「最後に、こちらが子爵家のお嬢さんよ」
彼は「子爵家のお嬢さん」と聞いて思わず絵姿に目をやるが、見てがっかりした。
「どのご令嬢にも興味はありません。それにしても、辺境伯夫人は余程暇をもて余していると見えますね」
あまりにがっかりしたので、彼は思わず嫌みを溢した。
叔母様と言われた初老の貴婦人は、辺境伯夫人である。国境周辺を領地にもつ夫は、活動的な妻を自由にさせているので、今日も彼女は侍女を1人だけ連れてリンデルの街にやってきたのだ。
リンデルの別邸にも使用人が常駐しているので、連れてくるのは侍女1人だけで構わない。今日はこの近くに甥が来ていると知り、彼を呼びつけたのだ。
「暇じゃないわよ。ジェイク、あなたがちっとも結婚しないから、私が焦っているんじゃないの」
彼女は、目の前の麗しい甥の姿を見ながら不思議に思う。甥は身内の贔屓目にしても、魅力的な男性だ。
容姿は非常に整っており、大人の男の魅力に溢れている。剣術や乗馬で鍛えた上げられた肉体は、軟弱なほかの貴族の男性とは明らかに違う。その色気の滲むバリトンの声で、愛を囁かれたい女性も多いだろう。加えて地位も身分もある。
その分、艶聞も絶えないが、それも仕方ないと彼を目の前にすると誰もが納得してしまうだろう。
「あなたはなぜ結婚しないの? 好きなお嬢さんでもいるの? でも好きな女性がいるのなら、まさかあなたがまだ口説いていないなんてことないでしょう」
ジェイクは叔母からの妙な信頼に苦笑いを溢す。
「いい加減に、あちらの女性こちらの女性と遊んでいないで、1人に決めなさいな」
そう言ってもう一度、釣書の束をジェイクの前に押し出した。




