48 道中の会話(国境の街サーベルンまで)
強かった風も午前中には落ち着き、2人は国境の街サーベルンへと向かっていた。今日もマリアは幌の中から顔を出し、ルーファスと話していた。
「マリアの両親のことを聞かせてほしい。2人の結婚は当時、話題になったと言っていたな?」
「そうよ。一国の王女とその隣国の子爵令息が、様々な困難にも負けず、国も身分も越えて結ばれたから、当時は一大ロマンスとして話題になったみたい。お父様はそのとき、まだ子爵位を継いでいなかったから、子爵ですらなかったのよ」
「たしかに子爵令息が一国の王女と結婚できるとは、俄には信じられないな」
「最初は前ウィスタリア王、つまりお母様のお父様が、最も愛した妻に生き写しの娘を、隣国の子爵令息ごときに嫁がせるのを決して許しはしなかったの。もともと前国王には、正妃つまり王妃様お1人のほかに、側妃数名と、妾妃が十数人といて、その妾妃の1人をとても寵愛して生まれたのがお母様なのよ。
王妃様は、寵愛を受けていた妾妃が憎かったから、その生き写しのお母様のことも大層憎んでいたのね。夫である前国王が亡くなり、自分の息子が王に即位したと同時に、厄介払いのように身分の低い男に嫁ぐことを許したんですって。
見たくもないから、この国から出ていきなさいって。嫁入り道具とかお見送りとかも、一切なく、身一つで……」
そこまで話して、マリアは微笑んで言った。
「でも、お母様はとても幸せだったみたい。愛する人と結ばれて……。私にはお母様の記憶がないけど、肖像画のお母様の笑顔や、お父様のお話を聞いていればわかるわ」
「……ねぇ、ルーファス? 私の愛する人は誰だと思う?」
「それは俺も聞きたい……」
「私ね、ルーファスのこと、大好きよ。でもこの気持ちにはもっと向こう側があると思うの……」
マリアは曇りのない瞳で「愛する人」に1番近い「大好きな人」を見つめた。




