44 赤い花
マリアは心地よい温もりに甘えるように、細い手足を絡ませ、頬を寄せる。その温もりが動くのを感じ、どこかに行ってしまうのを本能的に止めようと、さらに強く手足を絡ませ身体をすり寄せたとき、温もりが一気に離れていって目を覚ました。
「……私、寝ちゃったのね……」
すぐ隣を見るとルーファスが身体を起こしていた。どうやら結局2人で一緒に寝たらしい。
ルーファスはなんだかとても疲れてるみたいで、心配になったマリアは彼の顔を覗きこむ。
「ベッド、狭くて眠れなかった?」
けれど、ルーファスは「違う」とだけ素っ気なく言って、湯あみにいってしまった。
その後、マリアも湯あみしたが、着替えるときに鏡を見たら、昨夜ルーファスに口づけられたところが赤く痕になっていた。それはまるで花びらのように、身体の至るところに散らされていた。
「こんなところにまで……」
普段は人に見せないようなところにまで散らされた赤い痕を見ると、彼がそこに口づけたことを思い出し、1人で赤面してしまう。さらにそのうちの1ヶ所は、角度によっては服を着てても見えそうな位置にあった。
部屋に戻ると、待ち構えていたルーファスに昨日のことをこっぴどく注意された。マリアにとっては、彼にゆっくりと休んでほしいと思って提案しただけなのに、なんだか自分がとんでもない女と思われているようで複雑な気持ちになった。
「私だってルーファス以外にはあんな提案しないわ」
「だから、そういうことも言うなよ……。昨日だって、俺に色々されて驚いたんだろう?」
(今、お前のそばにいる男も危ないってことが、まったくわかってないんだろうな)
湯あみ後のしどけない姿で、警戒心もなく座っているマリアを見て、ルーファスは思う。わざと見えそうな位置に散らした1枚の赤い花びらが、彼に昨日のことをほろ苦く思い出させた。




