39 不意打ち
2人の目の前で尻尾をパタパタとふる黒い子犬を見て、マリアはルーファスを祈るような気持ちで見つめる。
「ルーファス……」
「………」
「ルーファス……ルーファス……ねぇ?」
「………」
マリアがルーファスの服の袖を掴み、懸命に呼び掛けても彼は黙ったままだった。彼女は彼の腕を両手で包み、顔を覗き込んだ。
「マリアはそうやって、行く先々でかわいそうな子犬を拾うつもりか?」
冷静にマリアを窘めるルーファスに、彼女の中で絶望的な気持ちが生まれる。
「今回だけよ。お世話も私がするわ。だから……」
絶対に「ダメ」と言われると思ったマリアは、必死に言葉を紡いでいく。そのとき、ルーファスが彼女の頭に優しく手をのせた。
「今回だけだからな」
「……え? いいの?」
ルーファスの予想外の返事に、マリアは驚いて目を丸くした。そんな彼女の頭を、ルーファスはそのままゆっくりと撫でる。
「ただし、弱っていたみたいだし、次のカヌレかどこかで早めに獣医に見せるからな」
「ありがとう、ルーファス! 本当に大好き!」
マリアはうれしさのあまり精一杯背伸びをして、彼の顔を引き寄せ、キスをした。
「……!」
そのまま甘えるように抱きつくマリアを抱きしめながら、ルーファスは柄にもなく、自分の顔が赤くなるのを感じた。
「不意打ちはずるいだろ……」
彼は小さく一人ごちて、今度マリアをどうやって啼かせてやろうか考えるのだった。
溺愛なので「啼く」です。……R15なので。




