4 侯爵は幼い令嬢を口説く
「花に囲まれている君があまりに可愛らしいから、天使が地上に舞い降りて、私の前に現れたのかと思ったよ」
そう言って、クルーガー侯爵は片膝をつき、マリアの幼い手をとり、恭しく口づけた。
マリアは突然現れた美青年にそんなことを言われて、驚くやら、恥ずかしいやらで、みるみるうちに頬が赤く染まっていくことを自覚する。
その様子を見ていた彼は相変わらず微笑んでいたが、その目には熱がこもっているような気がして、幼い彼女はどうしていいかわからない。
「君のこの髪も瞳の色も、本当にきれいだ」
侯爵は混乱するマリアに甘く囁き、その金の髪を一房掬い上げ、またひとつ口づけを落とした。
彼女はいまだ混乱していたものの、母親譲りの髪と瞳を褒められたのは素直に嬉しくて、恥じらいながらも笑みを満たした。彼は眩しいものを見るように優しく目を細める。
マリアはたったこれだけのやりとりで、目の前の青年をいい人だと思ってしまった。なぜなら自分の髪と瞳を褒めてくれたのだから。
「この髪も瞳もお母様と同じなの……。お母様は私が小さいときに亡くなってしまったから、お顔は肖像画でしか知らなくて……。だからお母様と一緒のこの色は、私にとってお母様とつながる大切なものなのよ。
でも、幼なじみのエドは変な色って言うの。それでいつも悲しくなってしまって……。褒めてくださって……とてもうれしいです……」
マリアは侯爵にお礼を言った。
「その子……えっと、エド君? のいうことは気にしなくていいと思うよ。こんなにきれいなんだ。自信をもって」
彼は話している間も、ずっとマリアの目線に合わせてくれていた。そのため、花園に埋もれてしまって、遠くからは見えにくかったのだろう。
父親のギルバートがこちらに来て、愛娘とクルーガー侯爵が一緒にいるのを発見すると驚いたような表情をしていた。