38 命取り
部屋に戻った2人は、毎晩の恒例となっている「明日の予定の確認」を行う。
「明日の雨次第だが、晴れていれば一気にカヌレまで行く」
ルーファスは地図を広げて、カヌレの地名を指差しながら言った。ふとマリアは地図を見て疑問に思う。
「ルーファス、地図を見るとカヌレより近くにあるリンデルの方が大きそうな街なのに、どうしてカヌレなの?」
「リンデルの方がたしかに大きいが、リンデルから出ている別の街道が、クルーガー侯爵の母方の実家に通じている。侯爵の祖母君は病床に臥せっていて、体調が思わしくないと聞いた。侯爵も時々お見舞いに行っているらしい。万が一、侯爵が何かの用でリンデルまで足を伸ばさないとも限らない。後顧の憂いはたっておきたい」
「ルーファスは何でも知っているのね……わかったわ」
マリアは、ルーファスが万事において色々と把握していることに驚きを隠せなかった。
しかし、それと同時に、彼女は会ったこともないクルーガー侯爵の祖母の体調も気にかかる。
「でも、お気の毒に……。クルーガー侯爵のお祖母様は体調を崩されているのね……」
マリアの様子を見て、人にも動物にもすぐに心を寄せる彼女に、ルーファスは思わずため息を漏らした。彼女の優しさは長所ではあるが、今の状況では命取りになりかねない。性格なので変えられないだろうが、ルーファスはマリアに念を押した。
「マリア、国境まではあと少しなんだから、最後まで油断するなよ」
翌朝には幸いにも雨は止み、出発前にまたマリアは、ミルクとパンをもって厩舎の陰に行った。すると昨日の子犬がやってきて、マリアの足元にすり寄ってくる。
「おはよう、朝ごはんをもってきたからね」
マリアが皿を置いてやると、子犬はうれしそうにぺろりと平らげた。
いよいよ出発の時間になり、マリアたちが外に出ると、子犬が尻尾を振りながら待ち構えていた。




