37 雨
その子犬はガリガリで、ひとりぼっちのようだった。マリアたちを警戒しているのか、その痛々しい身体を引きずるようにして、2人の前から姿を消してしまう。
「あ……行っちゃった……」
「それより、早く戻ろう」
こうしているうちにも、ますます雨はひどくなりそうだったので、ルーファスは後ろ髪引かれるマリアを無理矢理、宿に連れていった。
おいしい夕食をいただきながらも、マリアはあの子犬が気になって仕方がない。
「まだ気にしてるのか?」
ルーファスの言葉にマリアはこくりと頷き、窓の外を見た。雨はますます激しく窓を打ち付けている。この雨の中、あの子犬は1匹で震えているのだろうか。そう考えるといてもたってもいられなかった。
「もう一回見に行ってもいい?」
マリアが聞くと、ルーファスは呆れながらも許してくれた。
今度は傘と食堂でもらったミルク、マリアがわざと残しておいたパンを手に、さっき子犬を見たところに戻る。
「良かった、いてくれたのね」
マリアはほっとしながら、少し遠くにミルクとパンを置いた。
子犬は金色の瞳でマリアたちの様子を見ながら、よほどお腹が空いていたのだろう。臭いをかいだ後、大丈夫だと思ったのかミルクとパンを口にしてくれた。
子犬が食べてくれたことに、ひとまず安心したマリアは、ルーファスに付き合ってくれたお礼を言って、部屋に戻った。




