34 誰にも聞かせたくない
マリアが、出店で売っている星祭り限定のネックレスをどうしてもほしがったので、ルーファスが彼女にプレゼントした。マリアも刺繍の代金で、ルーファスに何かプレゼントしたかったが「今はいい」と断られてしまった。
ネックレスは小さな星が少しずれて2つ並び、星の中に宝石が入っていた。星の色は何種類かあり、マリアは自分たちの瞳に合わせて、ラピスラズリとアクアマリンにした。宝石といっても、値段がつかないほど小さなものなので、ネックレス自体の値段は高くない。
マリアは邪魔にならないように、人気のない場所に移動して、早速ネックレスをつけようとするが、上手くつけられなかった。
「マリア、つけてやるから後ろ向けよ?」
ルーファスが見兼ねて手伝ってくれるので、お言葉に甘えて後ろを向いたマリアだったが、彼に首筋を触られるのがたまらなくくすぐったい。
「……ん……」
「……じっとしてろ」
何とかつけ終わって、マリアが首もとで揺れるネックレスを手に掬いもっていると、
「マリアは首が弱いな」
とルーファスは意味ありげに笑った。
「そういえば、出発の日、エドに抱きしめられたときも声を出していただろう」
「だって、髪の毛が当たるし、息がかかるからくすぐったくて……。でも、あのとき……エドは泣いていたけれど、大丈夫だったのかしら? また会いに来てくれるって言ってたから、落ち着いたら手紙を書けばいいわよね」
ルーファスは、エドの気持ちをまったくわかっていないマリアに、他人事ながら「エドもかわいそうな奴だな」と思ったが、マリアに声を出させたのは許しがたかった。
マリアを狙う男たちの顔が浮かび、ルーファスは、人気のないことを確認し、彼女を強く抱き寄せる。
「……ルーファス?」
マリアは、突然彼はどうしたのだろうと思った。やがて、マリアの口から蕩けるような甘い声が漏れる。
「……ん……あ…」
この声は誰にも聞かせたくない。ルーファスは、マリアの首の、服に隠れるギリギリの位置に強めに口づけて、赤い痕をつけた。
彼らに、マリアは自分のものだと、わからせるように。




