33 今生きているこの世界で
たとえ天上の世界であっても、最終的には2人が永遠に結ばれて良かったとマリアは思っていた。
しかし、すっかり感情移入していたが、姫と騎士は恋人どうしであるのに対し、マリアとルーファスの関係は何だろう。
彼女は既に「お嬢様」とはとても言えないし、彼も職業的には「騎士」をやめてしまった。
でもマリアは運命をルーファスに託したからここにいる。彼は今でも頼りになる護衛騎士のつもりなのかもしれないが、それはいつまでなのか。
マリアにとってルーファスは、「好き」か「嫌いか」と聞かれたら「大好き」と即答できるほどの特別な男性だった。
それでも、もしこの場所に他の女性が恋敵として現れたら、争い事が苦手なマリアは戦わずして負けてしまう自覚がある。
でもだからと言って、たとえ相手と結ばれなくとも心中する気にはなれなかった。愛する相手も死んでしまうという現実に、マリアはとてもじゃないが耐えられそうにない。
相手まで燃やし尽くすような激しい感情が恋であるとするならば、マリアの想いはまだ恋と言うには幼く淡いものだった。
マリアが整理しきれない気持ちを抱え、こっそりと隣に座るルーファスの様子を伺ってみると、彼はいつものポーカーフェイスを保っていた。それを見たマリアは、ほんの少し落ち込んでしまう。
「ルーファスは相変わらず冷静よね……? 感動しなかった?」
2人の状況を自分たちに重ね合わせているのはマリアだけなのかと思うと、とてもさみしくてしょんぼりしてしまった。彼も自分と同じ気持ちでいてほしいと思うのは、贅沢なことなのだろうか。
「あんまり……。でもマリアを狙っていたのが、国王とか王太子じゃなくて良かったとは思ったが……。さすがに王族相手だと、できることは限られてくるからな」
そしてルーファスはマリアを正面から見つめて、予想もしなかったことを言った。
「俺は天上の世界じゃなくて、今生きているこの世界でマリアを幸せにする」
「え……」
思わぬ言葉にマリアが次の言葉を紡げずにいると、ルーファスが「行くぞ」と彼女の手を引いて立ち上がった。
ルーファスは隣を歩く、暗闇の中でも輝くように美しい、自分の姫を見て思う。
(マリアを奪われたら、俺はあの騎士のようには黙って見てはいられない。それはクルーガー侯爵も同じだろう……)
あの劇はルーファスの心に、一抹の不安をもたらした。




