32 星祭り
予定通り、夕方にはリザレの街に到着した。
リザレの街並はアスランと似ていたが、家々の軒下にかわいらしい星の飾り付けがしてあり、街全体が、ザワザワとしていてどこか浮かれたような落ち着かない雰囲気だった。
宿の人によると、リザレでは昨日から3日間、星祭りが開催されているらしい。
「行きたい」とキラキラとした瞳でマリアがお願いすれば、ルーファスはどうしてもその瞳には勝つことができない。絶対にはぐれないことを条件に見に行くことが決まった。
「ここから星祭りの会場が見えるわ」
マリアは待ちきれないように客室から窓の外を眺めていた。
広場には中央に簡単な舞台が設けられており、広場の周囲とそこから延びる路地にはたくさんの出店が並んでいる。
マリアは夜になるのを、今か今かと待った。
「わぁ、ルーファス、見て! 色々なものが売っているのね」
いよいよ祭りが始まり、ほんのり周りが見えるくらいの薄い暗闇の中、マリアはルーファスの手を引いて歩いていく。
マリアは最初、大人のルーファスに自分と手を繋いでもらうのはなんとなく申し訳ないような気がして躊躇していたが、この暗闇に大胆になっていた。
一方で彼もまた、たまにはされるがままに引っ張りまわされてみるのも悪くないと思う。
出店には、マリアが見たこともない色鮮やかなお菓子や、星祭りの「星」に因んだ商品など、様々なものが並んでいた。
彼女は見慣れないものを見るたびに、ルーファスに質問し、彼はそのひとつひとつに丁寧に答えてくれる。
自分の隣で初めての経験に目を輝かせる彼女はいつも以上に可愛らしかった。
「あ、何か始まるみたいよ!」
マリアは広場中央に据えられた舞台の前に、人が集まり始めたのを見つける。
2人は、混み合う会場でなんとか席を確保することができた。
やがて、舞台が始まった。舞台は星祭りの由来を表す劇だった。ストーリーはこうだ。
昔、ある国の姫とリザレ出身の騎士が恋に落ちた。身分の差があった2人は星空のもと密会し、愛を育んでいくが、姫を見初めた他国の王に引き裂かれてしまう。
姫は王と結婚するが、城を抜け出した姫は騎士と再会する。来世こそ、姫と騎士は一緒になれるように星に祈り、共にその命を絶った。そんな彼らを憐れに思った天上の神様が、彼らを2つ仲良く並ぶ星として甦らせる。
終わりある人の世では一緒になれなかったが、永遠につづく天上の世でいつまでも仲良く暮らせるようにと。
劇の最後には、今もその2つの星が空に輝いていることを教えてくれた。
マリアたちが空を見上げると、そこには目立たないけれど、2つ寄り添うように輝く星が見える。
切ない恋人たちの物語に、彼女は知らず知らずのうちに、自分たちの姿を重ねていた。




