31 道中の会話(リザレまで)
翌朝、食堂でお弁当をつくってもらい、宿を出た。今日はリザレまで、途中休憩を挟みながら行く予定だ。
今の時期は気候がいいので雨はほとんど降らない。旅立ちの時期が今で良かったと、マリアは心から思った。
休憩したとき、ルーファスばかりに御者をさせ、自分は幌の中にいることに罪悪感を覚えたマリアは、思いきって尋ねてみることにした。
「乗馬は苦手でも御者はできるかしら……?」
「できるできないの問題じゃなくて、マリアが御者なんてしたら、野盗に襲ってくださいと言っているようなものだ」
「野盗がいるの?」
「アストリアにはほとんどいないから、遭遇することはまずないが、ほかの国では普通にいる。アストリアでも可能性はゼロじゃないから、マリアに御者はさせられない」
そう言われて、マリアはルーファスが基本的にいつも帯剣していることに気がついた。
思い出してみれば、彼は平民街で買い物をするときでさえも帯剣していた。治安の良い王都でもそうしなければならないのだから、旅というのはやはり危険なのだと、マリアはしみじみと実感する。
「あと…前から気になっていたのだけど、ルーファスの仕事はいつまでお休みなの? こんな急に旅立ってしまって、大丈夫だった?」
旅立つ前にもルーファスにした質問だが、あのときははぐらかされてしまった。
彼は言葉を慎重に選びながら答えた。
「実は実家の父の具合が少し前から悪くて、信頼できる上司に、国に戻るかも含めて相談していた。
ただ、クルーガー侯爵がマリアに執着しているのはわかっていたから、自分だけ戻るのは心配で、決断を先延ばしにしていた」
「知らなかったわ、あなたのお父様、具合悪かったの……」
マリアは自分のことを心配して、ルーファスが中々里帰りもできなかったことを初めて知り、ショックを受けていた。
「ごめんなさい……」
「俺の気持ちの問題だから、気にしなくていい」
さらにルーファスは続けた。
「今回のことは、マリアを連れて国を出られるいいきっかけだった。父親にも戻ってくるように再三言われていたからな。
だが、俺が仕事をやめたとなると、クルーガー侯爵も間違いなく、俺がマリアを奪ったと気づくから、表向きはしばらくは休暇扱いにしてもらっている。
退団の報告は侯爵までいくが、休暇の報告なら子爵どまりだからな」
そういえば、クルーガー侯爵と叔父であるアジャーニ子爵は、アストリア騎士団に関わる仕事をしていたことをマリアは思い出した。
「でも、良かった……。ルーファスに無理を言って一緒につれてきてもらったみたいで、実は申し訳なく思っていたの。
それに……あなたの国に着いてからも、休暇が終わって、あなたがアストリアに帰ってしまったら、知らない国で1人、どうしようかって不安だったのよ」
ルーファスにはまだマリアに語っていないことがあったが、それは今話す必要はないと思った。
「ずっと俺のそばにいろって、何回も言ってるだろう? 不安があるならすべて話せばいい、受け止めてやるから」
ルーファスの言葉に、マリアは彼の腕の中にいるときのような安心感に包まれるのを感じた。




