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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第3章 アストリア王国編
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30 名前を呼んで

 マリアは男に対する危機感も薄く、ルーファスと同じ部屋に泊まることにもまったく難色を示さなかった。

 それには彼も拍子抜けしてしまうと同時に、何となく切なくなる。信頼されているのはわかるが、男としては立つ瀬がない……。

 

 マリアが湯あみをして部屋に戻ってきたとき、ルーファスはベッドに腰かけて地図を見ていた。


「明日はどこまで行くの?」


 地図を見ようと、マリアがルーファスの前に立つ。


「街道沿いにずっと進んでいけば、おそらく10日後くらいには国境は越えられるだろう。今日より明日は出る時間も遅いし、進める距離は短くなると思う。リザレの街まで行ければ十分だ」


 ルーファスは地図を指差しながら言った。隣国までは東にほぼまっすぐ街道がのびており、要所要所には宿場町がある。マリアは地図を見ながら、彼に色々な質問を続けていた。


 質問に答えながらも、ルーファスは目の前に立つマリアに視線を移した。

 湯あみをした彼女の頬は薔薇色に上気し、濡れた金糸の髪が色っぽい。ほっそりとしているが女らしい身体からは甘い香りがして、頼りない素材の可愛らしい夜着は男の欲望をかきたてる。


 ルーファスは、ベッドにいる男の前で無防備な姿をすることの危険性を、マリアが何もわかっていないことが気になった。


「それよりマリア、本当にお前は俺のそばを離れるなよ? 特に女の旅には危険が伴う。常に狙われてると思うくらいの覚悟で……」


 半ば説教染みた調子で話していると、マリアが可愛らしく笑った。不可解に思っている彼をよそに、天使のような微笑みを浮かべる。


「ルーファスは……言葉づかいは変わっても、私のことを思ってくれるところは変わらないのね」


 マリアは決意を込めて言った。


「実際もう私は、お嬢様でも何でもないのだから、夫婦のふりとか関係なく、一緒に旅をしているただのマリアとして扱ってほしいの」


 そこでマリアは一息おいた、そして薔薇色の頬をさらに恥じらいに赤く染める。


「あなたに名前を呼ばれたのがとてもうれしかったから……。ダメ?」

「マリア……」


 思わぬ可愛らしいおねだりに、ルーファスは頭がクラクラした。心臓を鷲掴(わしづか)みにされ、息苦しいほどの愛しさがこみ上げる。


(本当に……無防備すぎる……)


 ルーファスは、理性がはち切れそうになるのを、自覚せざるを得なかった。

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