3 クルーガー侯爵との出会い
クルーガー侯爵がマリアを見初めたのは、彼が王宮の用事で突発的にアジャーニ家を訪れたときだったらしい。
そのとき彼女は自邸の庭園で、家に飾る花をつんでいたところであった。
今、アジャーニ家の庭園は食料を少しでも賄うために畑に変わっているが、当時はまだ花々が咲き乱れる美しい庭園だった。
マリアが人の気配を感じ、振り返ったところ、当時まだ30代前半だった自分の父親と同じくらいの年齢の見目麗しい青年が、こちらを熱心に見つめているのに気がつく。
その青年こそが29歳の、若き日のクルーガー侯爵であった。彼はアストリア王国では一般的な濃い茶色の髪を後ろにしばっていて、その魅力的な双眸はエメラルドのようだった。マリアと目が合うとにっこりと微笑んで、こちらに近づいてくる。
我が家の庭園に見知らぬ人がいるとは思わなかった彼女は、驚きのあまりに固まってしまった。そのため、気がついたときには既に彼は目の前まで来ていた。
「君はギルバート殿のお嬢さん? 」
「……はい」
マリアはこの青年が父親の名前を知っていたことから、どうやら父親の知り合いらしいことはわかったものの、人見知りだった少女は最低限の返事をすることしかできなかった。