292 ドSで腹黒な彼
本当にR15です。そして大事な夜にルーファスは本領発揮してます。タイトル通りです。気をつけてお読みください。
「俺が今ほしいのは、マリアだけだ」
ルーファスは抱きしめる手に力を込めた。存在を確かめるように手を這わせ、絹糸のような金の髪に指を差し込む。
「今日のマリアはいつもに増して、甘くて美味しそうだ」
「それはたぶん、あのお屋敷で塗られた香油が……」
まだ初さが抜けきらないマリアが、生真面目に返答したときだった。
「ひぁ!」
耳を食まれ、首筋に口づけられる。マリアは何回か与えられたことのある、このもどかしい刺激の先を知っていた。瑞々しい身体が何かを期待して火照り始め、身体の奥に変化が生じる。
「見えるところにはつけない。見えないところは……いいだろ?」
「ダメっ! もうすぐあなたのご両親にお会いするのに……」
赤い花びらを散らして、結婚の挨拶に行くのはいくら何でも問題があるのではないか。
止まない口づけがマリアの思考を侵食する。熱に浮かされた頭を必死に動かしているのに、ルーファスは喉だけでさも可笑しそうに笑った。
「俺の国では婚約中にするのは当たり前だ。離婚できないんだから相性も確認しておかないと、悲惨なことになるだろ?」
それは本当のことで、特殊な性癖をもった人間はこの世に一定の割合で存在する。そうした相手とは添い遂げることは途方もない困難を伴うため、宗教上では問題があるとしても、ルシタニア王国では一般的に認められていることだった。
「でも、アストリアでは……」
「お前はもうルシタニアに嫁ぐんだ」
「あ……」
独占欲を滲ませた口づけが鎖骨まで下りてきたとき、ルーファスがすっと体を離す。急激に遠ざかった熱に、マリアは戸惑っていた。不安そうに彼を見る。
「嫌ならこれ以上はしない。やめておくか?」
彼から淡々と問われ、マリアは泣きそうになってしまった。熱くなっていたのは自分だけで、彼はすぐやめられるというのだろうか。
「どうする?」
「……ルーファス……」
言わなくてもわかってほしい。潤んだ瞳で訴える。
「俺だって無理強いするのは本意じゃない」
マリアは捨てられた仔犬のように身体を震わせた。恋する気持ちも、その後のアレコレもすべてルーファスに教えてもらっていたマリアには、恋の駆け引きはよくわからない。
焦る気持ちが衝動を突き動かして、気がつけば怯えながら彼にお願いしていた。
「…………して……」
「聞こえない」
「続き、してください」
ルーファスは意地悪くニヤリと笑う。まるで答えがわかっていたかのように。
「よくできました」
そのままマリアは寝台に縫い付けられた。それは蕩けるような夜が始まる合図。2人で見る夢はどこまでも甘く、終わらない。
絡んだ手から流れ込む気持ちと、ふれ合う肌を行き交う熱情。繋がった影が揺れ、濃厚な夜に溶け込む吐息が甘く切なく響き渡る。
そうしてマリアは初めての花を愛する人に捧げた。溺れるほどの愛と、引き換えにして。
次でエピローグです。何話かありますが、まもなく終わります。
最後まで見守ってください。
「溺れるほどの愛」この表現、大切です(笑) 詳しく書けない中で、色々お察しいただければ。




