284 許さない!
R15です。ルーファス偽ママの悪行三昧について書かれています。人によっては不愉快に思われる可能性があります。
「うふふ、あははは! 坊やはそんなにこのお嬢さんを失うのが怖いの? 楽しいわ、あなたの苦しそうな顔を見るのは……ふふふ」
耳障りな女の嘲笑が、辺り一面に響きわたる。
女にとって今の生活は退屈だった。国境近くの辺鄙な屋敷。愛人として過ごす日々。生活には困らないが、自己顕示欲が人一倍強い女には物足りなかった。
王都でもっと華やかに暮らしたいのに、犯罪者としてお尋ね者の身である以上、派手な行動もできやしない。
そもそも女は、昔からルーファスの存在を疎ましく思っていた。
女には欲望にまみれた夢があった。
ルーファスの父親と関係をもち、男子を産む。ルーファスを何らかの手段で消した後、息子を後継者として認めさせ、彼の父親も殺す。そうしてジルクリスト家の財産を丸ごと手に入れるつもりだった。
たが計画は初っぱなから躓いた。ルーファスの父親はいつまでも亡き妻を想っているうえに留守がちで、なかなか機会に恵まれない。古くからいる家令も邪魔だった。
だから家令の食事に少しずつ毒を盛り、保険としてルーファスと妹のジルを手懐けていく……。
ルーファスの父親がひどく酒を飲んだ夜、そのたった一晩だけ関係をもつことに成功した。
だがその晩だけで子を宿せるとは限らない。念のため、当時の恋人ともその時期に頻繁に関係をもった。その結果として妊娠に至り、無事に男子を出産した。
しかし金のことで恋人はあっさりと裏切り、悪事は白日のもとに晒された。そうなってしまえば恋人との間の子まで疎ましく、すぐに放置して逃げた。
「うふっ、楽しい、本当に楽しいわ……! そうね、坊やは昔から邪魔だったのよ」
女は隻眼のジャックを見た。
「ジャック、坊やを捕らえなさい。このお嬢さんが皆に愛されるところを見せてやるのよ。殺すのはそれからにしましょう。ふふっ、あははは! 絶望の中で死になさい!!」
ジャックがゆらりと立ち上がるのに、ルーファスは何もできずに立っていた。マリアの喉元にナイフが突きつけられている限り動けない。彼の唯一にして最大の弱点がマリアだった。
(この女は幼いルーファスの心を殺した……。それなのに、また彼を殺そうとしているの……? 今度は心と身体の両方を……)
愛する人を2度も殺そうとする女に、マリアは全身の血が沸騰するような怒りを覚えた。
(この女だけは……絶対に……絶対に許さない!)
本当のところ、マリアは人を故意に傷つけることはしたくなかった。人を傷つければ、肉体的にも、精神的にも、同じくらい自分も傷つくのがわかっている。
でもこの女だけは許せない。彼の痛み。彼の悲しみ。彼が味わった苦しみを、一体何だと思っているのか。
女はマリアを人質にとっていることで、油断しているようにも見えた。そして人質となったマリアには、ルーファスから教えてもらったばかりの護身術がある。
マリアは覚悟を決めた。あまりの才能の無さに、ルーファスからも匙を投げられたとか、そんなことはどうでもいい。今やらなくて、いつやるというのか。
(ルーファス。私……あなたが教えてくれた通り、きちんとやってみせるから……!)
次回、マリアが無双するとか……しないとか(゜ロ゜)




