279 眠り薬の威力
BLです。そしてR15です。心して読んでください!
丹念に磨きあげられたマリアからは、ほんのり甘い花の香りがして、陶器のように滑らかな肌はいつもに増して輝いていた。
そんなマリアに用意されたドレスは、非常に蠱惑的なデザインで、胸元も背中も大きく開いている。
(恥ずかしいし、目立つわよね?)
ショールを羽織ればおかしくないが、そんなものはここにはない。ちなみに元々着ていた服はどこかに持ち去られてしまった。
自分の姿を見下ろして思案しているマリアのもとに、カイが音も立てずに戻ってきた。その手には何かの布と小さな白銀の鈴が握られていて、マリアの視線はその耀きに自然と吸い寄せられる。
「それは、もしかして?」
「ああ」
カイは鈴を掲げてみせた後、手に持っていた布をマリアに押し付けた。
「交替が来る前に早く逃げよう。ほら、これ、着ろよ」
渡されたのはシンプルなメイドのお仕着せ。
この屋敷に連れてこられた女の子たちが、いつもどんな格好をさせられるのか、彼はよくわかっていた。だからこそ、あらかじめお仕着せを入手したうえで戻ってきたのだ。
「ありがとう。助かるわ」
カイに後ろを向いてもらい、マリアはすぐに着替え始める。
「大男たちはぐっすり眠ってくれた?」
マリアの簡単な質問に、なぜか沈黙が落ちた。
「…………」
「カイ?」
「…………! えっと、全然眠ってくれなかった。むしろハッスルしてたけど、おかげさまでわりとすぐに鈴は見つかったから、良かったよ……たぶん」
「え、眠らなかったの? それならどうやって、元気いっぱいの大男たちから鈴を借りることができたの?」
マリアは官能的な服を床に落とし、お仕着せに袖を通した。カイがぽつりと答えてくれる。
「……服が全部、脱ぎ捨ててあったから」
カイは今しがたあんな場面を見てきたばかりだから、マリアの衣擦れの音が気になって仕方がない。
「脱ぎ捨てられた服の中に、入っていたということ?」
「そうだよ。下履きの中にあった」
下履きとは、つまり男の人の大事なところを直接ガードするあの布だ。
「大男は2人でお取り込み中だったから、びっくりするくらい楽に入手できたんだ」
「そう。あなたが危険な目に合わなくて、本当に良かったわ。でも何に取り組んでいたのかしらね?」
眠り薬も効かないくらい夢中になれることとは何だろうかと、マリアは気になってしまった。ただの興味本位の質問は、カイを非常に困らせた。
「えっと……肉弾戦にいそしんでた……」
カイは端的に答えて眉間に皺を寄せた。肌と肌とがぶつかる音と、恍惚としたごつい声。それらが脳内で再生されそうになるのを必死に押し止める。
それとほぼ同時にマリアは着替えを終えて、彼の横に並んだ。
「なんか、苦しそうよ。大丈夫?」
「し……心配はいらない! さ、もう質問はいいだろ? 逃げるぞ!」
カイは眠り薬の正体に気づいてはいたが、マリアに真実を告げると、混乱して時間を食いそうなので、敢えて何も言わなかった。
あの薬のおかげで、大男2人は忘我の淵に沈み、鈴も簡単に入手できた。大男と狂犬の問題を一挙に解決できたのだから、望むべくもない結果だ。
カイはマリアを先導して、脱出を開始した。
眠り薬だったら、カイは鈴をさがすの大変でしたよね。脱いでくれて助かったということで(・・;)
大男たちは仲良く添い遂げると思いますので、安心してください。性別なんて気にしないほどの、本物の愛が芽生えたんですね!




