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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第3章 アストリア王国編
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27 王都脱出

 皆の姿が見えなくなると、マリアは幌の中に身を隠した。王都を出るまでは静かにするようにと、ルーファスからきつく言い付けられている。


 馬車の乗り心地は一般的に言えば、最悪だった。ほかの貴族令嬢ならば、憤慨して馬車から下りてしまうことが容易に想像できるくらいに、悪い。


 しかしそんなことは、マリアにとっては少しも問題にならなかった。貧乏暮らしが長かったせいもあるが、彼女は何よりもルーファスに申し訳ないと思っていた。

 宿直勤務あけから今の今まで、ルーファスはほとんど休めていないはずなのだ。その彼がこうして御者をしてくれていることを考えれば、マリアはいくらでも耐えることができた。


 幌の隙間から王都の街並みが流れていく。じっと息を潜めていると、やがて王都の外に出た。王都が遠く霞むようになったとき、マリアが幌の中から声をかける。


「もう、顔を出しても大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


 マリアが顔を出すと進行方向に朝焼けが見えた。御者台に座るルーファスの姿が眩しい。


「ルーファス、本当にありがとう……。きちんと御礼も言ってなかったと思って……。あなたがいなかったら、私、あのまま残って、あの人と結婚していたと思うの。王都から出たこともない私が1人でなんとかできるとは思えないし……」


 ルーファスは後ろを振り返りもせずに答える。


「そうですね、お嬢様は世間知らずで純粋ですから、屋敷に残っていたらクルーガー侯爵に良いようにされていたでしょう。1人で屋敷を出ていたとしても、どちらにせよ悪い男に騙されて終わりでしょう」


 優しいルーファスにはっきりと言われて、マリアは少し落ち込んだ。でも事実だから受け入れざるを得ない。


「両親もいなくて、家もなくて、身分もなくして、何にもなくなってしまったけど、その分できることは何でも頑張るから、だからしばらくは一緒にいさせて、ね?」


 マリアがルーファスにお願いしたときだった。


「……ふふふ……ははは」


 突然、ルーファスが壊れたように笑い出した。

 マリアは一瞬戸惑うが、朝焼けを背後に振り返った彼の笑顔は、淡く橙色に染まり、驚くほど美しかった。

 紺碧の瞳に宿る熱に魅入られたマリアは目がそらせない。2人の視線が絡み合った。


「そう、今のお嬢様には私しかいません。決して私のそばから、離れないようにしてくださいね」


 ルーファスは、ずっとそばで大切に愛でてきた高嶺の花が、ついに今、(みずか)ら彼の手元に堕ちてきたのを感じていた。

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