276 大人のパーティー
R15ですが、そういうシーンはありません。言葉だけですが、わかる人には「あらまぁ! なんてこと!」という感じです……。
灰色の髪に赤い瞳をした少年。その顔はまだ溌剌として覇気があった。彼はマリアを見て目を見開く。
「まさかマリク?」
そこにいたのは、アーデルハイムで出会ったひったくりの少年カイだった。
「やっぱりそうか! 今回来るのは『金髪の女』だって聞いていたけど、まさかマリクだったなんて!」
彼はたしかにあの日、貧しさゆえに売られる予定だと話していたが、こんなところで再会を果たせるとはまったく予期せぬことだった。ちなみに「マリク」とは、男装をしていたときのマリアの名前である。
「また会えてうれしいや。マリクは女だったんだな。髪が短い女なんてめったにいないから、わからなかった」
「あのときは黙っていて、ごめんなさい。でも私もまた会えてうれしいわ!」
カイの辛い毎日を支えたのは、過去の優しい記憶たちで、だからこそカイはマリアのことを忘れられなかった。マリアの方も親に売られたカイのことはずっと気にかけていたから、手を握りあって再び巡り会えた奇跡を喜んだ。
2人はお互いの事情を説明し合う。
「……というわけなの」
「そっか。お前の本当の名前は『マリア』なんだな。それに、ここに捕まって来たのも計画通りなら、少し安心したよ」
「うん、助けが来るはずだから大丈夫よ。カイは転売されていたのね。……辛かったでしょう?」
「ここは待遇自体はそんなに悪くないから、前にいたところよりはかなりマシなんだけど、でもうまいだけの話はなくて……」
カイはマリアのような女たちを、わずかな間に何人も見送ってきた。積極的に犯罪に関与したことはないが、命じられた範囲で荷担してしまっているので、それだけは本当に不本意だった。
今、マリアの監視についたのも、あくまでも命じられたからに過ぎない。『商品』が良からぬ気を起こさないように。
カイの苦悩を敏感に察知したマリアは、その心情に真心をもって寄り添った。こうしてマリアが連れてこられた場所にカイがいたのは、神様の思し召しだと思う。
「大丈夫よ! さっきも話したでしょう? 私の仲間が助けてくれるの。そうすればあなたは自由になれるわ」
きっと悪事は暴かれる。奴隷の転売は許されないことだ。しかし前向きなマリアに対して、カイはそう単純にはなれなかった。
「マリク……いや、マリア。助けはいつくるんだよ?」
「もうマリクでいいわ。わからないけど、近いうちには来ると思うの。早ければ今日中に来てくれるかもしれないし、明日か明後日かもしれないし。希望を捨てずに待ちましょう」
岩塩は最後まで落とすには全然足りず、早々に道標は無くなってしまったが、岩塩と共に残るであろう馬の臭いか何かでそのまま辿れるんじゃないかと、マリアは楽観視していた。
「明日か明後日って……。そんな悠長なことを言っていて良いのか? この後、香油でマッサージを受ける予定だろう?」
「うん。その話を聞いて、びっくりしちゃったわ。ここのお屋敷の持ち主はとてもお金持ちなのね」
カイはなんだかすごく残念そうな顔をした。
「そのピカピカになった身体を、マリクは一体誰に見せると思っているんだ?」
「?」
「マリクを買う予定の紳士たちに、その日のうちに見せるんだよ。大体今までそのパターンだ」
「!」
「だから時間がない。しかも買われた後は皆の前でご主人様に奉仕した後、その場でほかの紳士たちにもお裾分けがある。そして大人のパーティーの始まりだ。はっきり言って、いつ来るかわからない助けを待っている時間はない」
マリアは一気に血の気が引いた。間に合わなかったら元も子もない。
「そんな……早く逃げないと……。カイ、あなたも一緒に逃げましょう?」
カイは第85話の「売られていく少年」に出ていた男の子です。マリアと協力して頑張ってくれます。
ピンチは切り抜けてこそのピンチなので、安心してお読みください。




