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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
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275 束の間の幸せは下ごしらえ

 マリアは今、清潔なベッドに1人、ちょこんと腰かけていた。昨夜は疲れていたので、ベッドに案内された途端、無防備にも眠ってしまった。


 部屋には蔓薔薇(つるばら)が絡まる意匠の格子窓があって、その小さな隙間から射し込む朝の光で優しく起こされた。澄みわたる空はマリアの瞳と同じ色。


 先ほど下げられたばかりの朝食も、とても豪華で美味しかった。

 キャラメルソースにチョコレート、生クリームがたっぷりとのったふわふわのパンケーキ。優しい味のコーンスープに、パリッと瑞々しいサラダ。ヨーグルトには黄金色の蜂蜜と季節のフルーツが添えられ、食後の紅茶はとても香り高かった。


 足元を見てみれば、複雑な模様の高級そうな絨毯と可愛いらしい部屋履き。服だけは昨日のままだが、朝食を給仕してくれた少年によると、これから湯浴みとマッサージがあるらしい。

 香油でとことん磨きあげられた後は、マリアに特別なドレスをプレゼントしてくれるという。


 この待遇には、マリアもすっかり驚いてしまった。彼女だってれっきとした貴族令嬢には違いないが、年頃になった頃にはアジャーニ家はすっかり困窮していたから、こんな経験はしたことがない。とても丁重に扱われるので、まるでお姫様か何かになったようだと、ありえない幻を見てしまう。


 でもそのときふと、馬車に乗ったときの髭面の男の言葉を思い出した。


『まぁ、ねぇちゃんなら確実にどっかの金持ちの愛妾になれるぜ。そうしたら今より確実に良い暮らしできる』


 もちろん拐われて売られた場合、当該取引には有効性は認められない。それでもマリアは自分のすべてはルーファスのものだと思っているから、たとえ紙の上の(しがらみ)で済んだとしても、気持ち的にはできれば避けたいところだった。

 ましてや万が一、この清い身体が汚されでもしたら、本当に死んでしまうかもしれない。


(これだけ立派なら、もうここがゴールだと思うんだけど……。ルーファス、まだかしら……)


 マリアはこの屋敷までは隻眼の男に連れてこられたが、その彼も今はどこかに行ってしまった。


 扉の横には監視役とは名ばかりの少年が座っていて、彼の濁った虚ろな瞳と、感情のすっぽり抜け落ちた表情は、マリアの心をひどく締め付けた。

 彼もまた売られたのだろうか。ただ座っているだけの人形に成り果てるまでに、何があったのか。自分たちの行動が、少しでも不幸な犠牲者を減らすことができれば、これほどうれしいことはない。


 マリアが隠しポケットに手を入れると、カツンと爪先が固いものに当たった。もうルーファスにあげる岩塩はすっかりなくなっていたから、残るは叔父の小瓶だけだ。


 マリアは小屋の中で袖口に移し変えた岩塩を、道中少しずつ落としてきた。マリアだけが明らかに他の『商品』と扱いが違ったので、念のための行動だった。

 ブラックはとても賢いから、岩塩についたマリアの匂いに気がついてくれるはず。もしブラックが気がつかなくても、エドがいる。何せあの岩塩はエドに無理やり買わされたものだ。忘れたとは言わせない。


 きっと助けは来てくれる。


 交代の時間なのか、監視役の少年が生気なくフラりと立ち上がった。マリアは慌ててポケットから手を離す。そして入れ替わりに素早く違う少年が入ってきた。


 灰色の髪に炯々(けいけい)とした赤い瞳をした少年。

 マリアはその少年に見覚えがあった。

この屋敷は『注文の多い料理店』方式です(;・ω・)


朝食は甘そうですよね。女の子は好きそうですが。


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