273 (エド視点) マリアはどこですか? 2
俺たちを貫く凶悪な幾つもの瞳。肌をチリチリと焦がす緊張感は、まさに一触即発の言葉がふさわしいと思う。一度誰かが均衡を崩せば、この空間を支配するひどく不気味な静寂も、あっという間に混沌に飲み込まれるだろう。もちろん、俺も含めて。
(マリアはどこだ?)
そんな中、俺は誰も動かないこの隙を逃さず、素早く室内を観察した。
この部屋はかなり広くて、むさ苦しい男たちが10人以上いても、まだいくらか余裕がある。部屋の奥には、大人2人が横になれそうな大きなソファーが置かれていて、そこには髭面の男が凭れかかるように座っていた。
ほかの男たちは皆立ち上がって油断なく警戒しているのに、1人だけゆったりとソファーに背中を預けるその姿は、ボス感満載だ。
きっと奴はここのボスだ。間違いない、たぶん。
そしてボスの後ろにある1枚の扉。
(怪しい……)
もしかしたらあの扉の奥にマリアが閉じ込められているのかもしれない。でもどうやってあそこまで行こうか。俺があそこに行くのを許してくれるほど、甘くはないと思う。さすがのボスも立ち上がるんじゃないか?
俺が悩んでいたそのとき。
ズルッズルッ
重たい何かが擦るような音がして、俺は床に目を落とした。視界に入ったのは、死にかけのおっさんが匍匐前進する姿。芋虫みたいな。
脚を砕かれたからそれしか移動手段はないよな、と同意しつつ、果敢にも俺たちの間を通ろうとするので驚いた。
たしかにさっきルーファスさんが出入口の扉はぶっ壊したから、今、出入口はフルオープンだ。それに俺たちの間を通るのが最短距離なのは事実なんだけど、おっさん、ちょっと大胆過ぎない?
(えっと、このまま逃がしていいの? 雑魚は追わない主義とか……? でも警備隊に引き渡した方が良いような……)
ズルッズルッ
芋虫男に目もくれないルーファスさんの、その真意を測りかねて、俺は困ってしまった。横でルーファスさんは前方つまりボスを含む奴らを睨んでいるままで、気にする様子もない。
そのはずなんだけど。
メリッ!!!
ルーファスさんは芋虫男の頭を、ノールックで思いっきり踏んづけた。ついでに踵でグリグリしている。顔は無表情、視線は前方、哀れな芋虫男は靴の下……。
芋虫男は呆気なく止まった。息はありそうだけど、歯とか鼻とか顔面のパーツが床にめり込んでいて、もう叫び声もあげられないらしい。酷い……。
「一人も逃がす気はない! かかってこい!」
ルーファスさんが初めて大きな声を出した。思わず奴らに目を向けると、徐々に顔が赤くなっていくのが見てとれる。赤くなり過ぎた顔からは湯気が……。
ブチブチッ
血管のキレる音が複数回聞こえた気がした。
「こんの、やろぉー!」
「後悔させてやるぜ!」
ルーファスさんは一斉に襲いかかられ、室内に怒号が響き渡る。乱闘だ、乱闘。そして俺はというと……。
奴らから、めっちゃスルーされていた。何これ? 俺もマリアを助けに来たんですけど!
(ルーファスさんが極悪すぎて、俺の存在が空気より薄い……。ああ、そうか。行くなら、今か!)
俺は乱闘騒ぎを掻い潜り、こそこそと移動する。
誰にも邪魔されることなく、無事に扉の前に到達した。
もうすぐ会えるかな?(´;ω;`)




