272 (エド視点)マリアはどこですか? 1
落雷のような凄まじい音がして、扉が勢いよく吹き飛んだ。遮るものが何も無くなった出入口からは、散らかった室内がよく見える。
転がる空瓶に、机の端をポタリポタリと滴る酒。その雑然とした部屋の中でフリーズするのは、赤ら顔の男たちだった。
あの間抜け面は、良い感じに出来上がってるのかな? それとも事態を把握できていないだけなのかな?
それでも俺は、小屋の中にいる人数についつい腰が引けてしまう。少なくとも10人はいるな。えっと、15人弱か。
多勢に無勢と言うくらいだから、やっぱり頭数は絶対的に大切だ。もちろん今回も例外じゃないと思う。
「だから言ったのに!」っていう怨念を込めて、隣に立つルーファスさんに視線を移すと、ルーファスさんは動揺するどころか、鉄仮面並みの無表情だった。何、この人……。人間……?
「女、子どもを売って飲む酒が、そんなに旨いか?」
ルーファスさんの声はまったく抑揚がないわりに、不気味なほどよく響いた。そう言えば、昔、マリアはルーファスさんの声が落ち着くからって、俺に泣かされたときや何かあると、すぐに慰めてもらいに行っていたな。
嫌なことを思い出して下を向く、そしてまた隣を見ようとした俺は氷のように固まった。
(あれ? なんか……寒気が……)
ルーファスさんがいる方の半身が凍える。
「あーん? 兄ちゃんたち何なんだ……!?」
1番近くにいた頬骨の突き出た痩せた男が、吹き荒ぶブリザードにも負けず、ルーファスさんにわかりやすく絡んだ。や、やめとけよ!
俺の予感は的中した。
ルーファスさんは一切の迷いもなく、管を巻く男の両足を思いっきり横に払った。扉をぶっ壊した、あの神速の蹴りで。
「っでぇぇぇー! ■◎%*※ー!」
男は訳のわからない叫び声をあげて崩れ落ちた。そりゃ扉を粉砕するくらいの蹴りだからな、人の骨なんて脆いよな……。あー、おっさん、なんかピクピクしてるよ。死にかけの何かみたい、マジで痛そう……。
しかしそれを境に、部屋の空気がはっきりと変わった。小屋の中の男たちが得物をもって立ち上がる。
ここにいるのはただの酔っ払いじゃない。プロの犯罪者集団だ。現に顔つきがさっきまでとは、全然違う。
今、奴らは本気で俺たちに襲い掛かろうとしていた。




