270 酒盛りの……
R15です。サラッと流せば、そうでもありませんが……。
ルーファスが分岐点となった小屋まで戻ったときには、明け方まで今少しという時間になっていた。足場が悪く、ますます翳る月明かりに、思ったように馬を駆れなかった。
「なぁ、ブラック。あそこにまだ、マリアがいると思うか?」
「クゥーン」
地面に下ろしたブラックが、ルーファスを見上げて心細そうに鳴くので、余計に不安が増す。こんなときに動物に聞いておきながら、若干後悔した自分がまた情けない。
ルーファスが小屋の壁に耳を当てると、中から下品な笑い声が微かに聞こえてきた。女の泣き声はしなかったので、少しだけホッとする。
(まったく頑丈なことだな。中で酒盛りをしてるのか? どちらにせよ、さっさと踏み込まないと……)
窓ひとつないこの小屋は、まるで小さな要塞のようだ。
今はルーファス1人しかいないので、マリアがまだ小屋の中にいた場合、彼女を人質に取られないように注意しなくてはならない。もう1人いれば、自分が引き付けている間にマリアを保護して、先に安全な場所に避難してもらうのだが、それができない分、どうしても難易度は高くなる。
それでもルーファスは剣に手をかけ扉の付近まで進んだ。もしかしたらあの酒盛りのメインは……マリアかもしれない。
そのとき横を歩くブラックの耳が、ぴんと立った。野生の獣そのままの機敏な動きで音を探ると、その金色の瞳の先には馬に乗ったエドがいた。
「ルーファスさん……? なんでここに……」
「エドか。お前が来たということは、マリアはやはりそっちにはいなかったんだな」
馬から身軽に下りたエドは、小声で会話ができる程度に距離を詰めた。
「はい。でも、なんでルーファスさんが? 俺は今からルーファスさんの方に手伝いに行こうと思って……」
「こっちにはマリアはいなかった。子どもがいただけだ」
「……そっちも? 俺たちの方も、若い女の子が3人いただけで、マリアはいなくて……」
「そうか」
「じゃあ……マリアは今、どこに……?」
「まだあの中かもしれない。なんだか奴らは盛り上がってるみたいだから、もう踏み込むところだった」
「……!」
ルーファスの話を聞いて、エドはさっき目にしたおぞましい光景を思い出した。
先発の馬車はそう遠くもない屋敷の中に消えたのだが、屋敷の規模がかなり大きかったので、その場の判断で先に警備隊の詰所に応援を呼びに行った。
しかしそれが良くなかった。態勢を整えていったときには……。
それでも女の子たちはしっかりと保護され、ケダモノのような男たちは警備隊員たちによって全員捕らえられた。
しかし起きてしまった事実は変えられない。エドはどうしようもないほどの憤りを胸に、両手を固く握りしめた。
女の子たちはギリギリのギリギリで、セーフだったと思ってください。




