269 第3の方法
少年の言葉はルーファスに希望を与えた。
情けないことだが、そもそもマリアはあの猟師小屋にいなかったのではないかと、不安になっていたのだ。
しかし間違いなくマリアがあの小屋にいたのなら、イザークたちが追いかけた先発の馬車の方に、彼女は乗せられているはずである。
自分が助けてやれないのは残念だが、大切なのは彼女の身の安全だ。早くこちらの始末をつけて、イザークたちに合流しなければならない。
「でもその人以外にも、ほかに女の人がいたかもしれないよ?」
「いや、充分だ。ありがとう」
ルーファスがオーランとマックスのところに戻ろうとした時、少年の「あ!」という声が背中から飛んできた。
振り返ったルーファスは、少年の言葉の先を促してやる。
「そういえば、その『うぃす……なんとか、りあ』の女の人だけは、『後から別に連れていく』って言っていたよ!」
「……後から?」
少年たちの馬車は後発だから、その話は辻褄が合わない。先発の馬車の追跡をイザークたちに任せたからこそ、ルーファスは今ここにいるのだ。
「君たちの馬車よりも早く出た馬車があっただろう? 『先に行く』の間違いじゃないのか?」
「たしかに、同じくらいの時間に僕たち以外にも誰か出発したみたいだけど……。檻の鍵が開く音がしたから」
「…………」
ルーファスはすぐさまある結論に達し、そして愕然とした。頭に浮かぶのは最悪の事態だ。
「どちらの馬車にも、マリアは乗っていなかった?」
つまりはルーファスたちが確認した2台の馬車のほかに、第3の方法でマリアは出立した可能性がある。
これが意味することは、ルーファスたちがマリアの居場所を完全に見失ってしまったことに他ならない……。
いつの間にか、オーランがルーファスの背後に立っていた。
「ルーファス、ここはもう良い。早くマリアを探しに行け」
「オーラン殿……」
オーランが力強く頷いた。
「あとは私とマックス殿で何とかできる。警備隊の詰所までは馬で駈ければそれほどかからないし、こいつらにも抵抗する気力は残っていない。少年たちの保護も任せてくれ」
用心棒がわりの男と御者の「こいつら」は後ろ手に縛られ、太い木にしっかりとくくりつけられていた。警備隊の詰所はオレイユ地方にいくつか散らばっているが、その位置はマックスがよく把握しているから、最短距離で支援を求めに向かうだろう。悪党と少年たちの身柄の引き渡しが済めば、粗方おしまいだ。
普段寡黙だからこそ、オーランがかけた言葉は年長者の優しさに溢れていた。ルーファスは決断する。
「ありがとうございます」
そうしてルーファスは、オーランと警備隊員マックスに後を託し、ブラックを懐に入れて来た道を全力で戻る。
戻る先はマリアが確実にいたあの小屋だ。




