268 馬車の中
狭い馬車の中には、まだ年端もいかぬ少年たちが3人、折り重なるようにして倒れていた。
馬車は馬が暴走した衝撃で車輪が外れて傾いてしまっていたから、手足を縛られて身動きが取れない少年たちは、幌の中で激しく揺さぶられてしまったことだろう。
ルーファスはらしくもなく、動悸が早まり、嫌な汗が吹き出るのを感じた。埃っぽく暗い幌の中、何1つ見逃さないように、端から端まで視線を走らせる。
そうして突きつけられたのは、ある残酷な真実。
「マリアが……いない」
今、彼の目の前にいるのは、昔の自分と同じ哀れな被害者たちだけだ。
しかし、記憶の底に沈む泥のような感情がルーファスの心をまた濁らせたとしても、まずは少年たちの拘束を解いてやらなければなるまい。
ようやく解放された少年たちの薄っぺらい身体には、あちこちに痛めつけられた痕があり、縛られたところは血が滲んでいた。
「もう、大丈夫だ。家に帰れるから安心しろ」
「……うん、ありがとう……ござい……ます」
辿々しく、掠れた声で少年の1人が礼を言った。声を出すのも久しぶりなんだろう。
「君たちに、聞きたいことがある」
心の内の焦燥を隠し、ルーファスは穏やかに尋ねた。小屋の内側で何が起こっていたか、少なくとも彼らは自分たちよりも知っているはずだ。何でも良い。情報がほしい。
「君たちが馬車に乗る前にいた小屋の中に、若い女がいなかったか?」
「若そうな女の人の声は聞こえたよ。僕たち、ずっと目隠しをされていたから、姿は見ていないけど……」
「何を、話していた?」
少年たちは困ったように顔を見合わせた。
「すごく小さい声だったから、話の内容まではよく聞こえなかったんだ」
「そうか……」
目隠しをされていた彼らに、それほど大きな期待を寄せていた訳ではないが、正直なところ少しだけがっかりした。若い女というのが、マリアだという根拠もない。
「でも男の人たちの声は聞こえたよ」
「……!」
「『うぃす……なんとか、りあ』とか『あのお方』がどうとか……」
モヤる展開なので、次は早めに更新します。もう少し、もう少しだけ、お付き合いください。
お願いします、見捨てないで(´;ω;`)




